カタパルトスープレックスニュースレター
韓国高速道路レストランのロボットシェフ/FacebookとInstagramでの詐欺横行/A/Bテスト戦略の再考:25,000件の事例が示す一般的な課題と改善点/トランプ主義のアメリカ的ルーツ/デザインへの誤解を解く:経営者が認識すべきデザインの本質とAIの影響/など
韓国高速道路レストランのロボットシェフ:人手不足対策と現場の評価
韓国の高速道路にあるサービスエリアのレストランでは、深刻化する人手不足への対策として、調理の一部を自動化するロボットシェフの導入が進んでいる。これにより、24時間体制での食事提供の維持や、ピーク時における調理能力の向上が図られている。韓国政府も、高齢化社会における労働力不足の長期的な解決策として、ロボット労働者の導入を国家的に推進している。
ロボットシェフの導入は、現場の従業員の労働環境と顧客からの評価において、新たな課題を生み出している。従業員からは、調理という専門的な仕事が機械の監視、食材の補充、清掃といった補助的な作業に置き換わり、仕事への誇りを失ったとの声が上がっている。一部では人員削減も報告されている。顧客からは、ロボットが提供する画一的なメニューや味の質の低下に対する不満が聞かれ、以前の手作りの料理を懐かしむ意見も出ている。
現在のロボットシェフは、完全な自律稼働には至っておらず、食材の準備や機械のトラブル対応、最終的な盛り付けなど、多くの場面で依然として人間の介入が不可欠である。韓国社会でロボット導入をさらに拡大していくにあたっては、労働者の再教育プログラムの整備や雇用の安定確保、そして人間とロボットが効果的に共存できる職場環境の構築が、今後の重要な課題となる。
FacebookとInstagramでの詐欺横行:Metaの対応と指摘される問題点
Metaが運営するFacebookやInstagramは、海外の犯罪ネットワークによる詐欺広告の主要な拡散経路となっている。実在の企業を騙った偽の格安商品広告などが多数掲載され、消費者が金銭をだまし取られる被害が頻発し、正規の事業者が風評被害を受ける事態も起きている。銀行の報告では、決済サービスZelleにおける詐欺の半数近くがMetaのプラットフォームに起因しており、社内文書でも新規広告主の7割が詐欺や低品質な商品を宣伝していることが示された。
Metaの従業員によれば、同社は広告収入の減少を懸念し、詐欺広告への対策に消極的である。詐欺行為を繰り返す広告主に対するアカウント停止基準も甘く、個人間取引のMarketplaceも詐欺師の温床となっている。Metaは、プラットフォーム上の詐欺に対する法的責任はないと主張する一方、近年規模と巧妙さを増す詐欺行為への対策を強化しているとも述べている。
暗号資産や生成AIの悪用、東南アジアを拠点とする国際的な組織犯罪の拡大により、Meta上の詐欺問題はより深刻なものとなっている。専門家はMetaの対策の遅れが状況を悪化させたと指摘する。過去には詐欺対策の優先度が引き下げられた事実もあるが、Metaは近年、対策への投資を増加させ、多数の不正アカウントを削除したと説明している。プラットフォームの責任を問う法的な動きも存在する。
A/Bテスト戦略の再考:25,000件の事例が示す一般的な課題と改善点
多くのテクノロジー企業でA/Bテストが広く実施されているが、実際に収益向上に結びつくテストは全体の約10%に過ぎない。多くの企業が、効果が実証されていない一般的な手法や、競合他社が実施して失敗した施策を模倣しており、A/Bテストはその本来の目的を果たせず機能不全に陥っているのが現状である。この結果、時間、エネルギー、費用が無駄になるだけでなく、コンバージョン率の低下を招くことさえある。
A/Bテストが成果を上げられない主な理由として、第一に、企業が実際に効果のある施策ではなく、単に広く採用されている慣行を模倣する傾向があること、第二に、顧客の嗜好や市場のトレンドは常に変化するため、過去の成功体験や時代遅れの「ベストプラクティス」が現在の市場では通用しないことが挙げられる。さらに、テストで効果が確認されたとしても、特にAI関連の訴求のように、社内の長期的なビジョンや投資家への配慮、あるいは既に投じたコストへの固執から、データに基づかない意思決定が下されるケースも少なくない。
効果的なA/Bテスト戦略を構築するには、まず成功したテスト事例の傾向を分析し、それを自社の仮説立案に活用することが重要である。また、テストを実施する前に社内の関係者間で目的や評価基準について合意を形成し、顧客行動の変化に合わせて定期的に前提を見直す必要がある。テストの数をやみくらに増やすのではなく、本当に重要な改善に繋がる可能性のあるテストに資源を集中させることが、より良い成果を生むための鍵となる。
トランプ主義のアメリカ的ルーツ
エズラ・クラインは本エピソードで、トランプ現象やアメリカの現在の政治的危機を、海外のファシズムになぞらえるのではなく、アメリカ固有の歴史の中に位置づけるべきだと論じる。ゲストの歴史家スティーブン・ハーンは、アメリカの「非リベラル(illiberal)」な伝統が建国以前から存在し、差別、排除、暴力、そして政治的排他性が制度的に正当化されてきた過去を詳細に説明する。とくに19世紀のアンドリュー・ジャクソンの先住民追放政策や、20世紀初頭のレッドスケア、1924年の排他的移民法、さらには日系人収容やマッカーシズムなどは、今日のトランプ主義にも通じる「排除と序列化の政治」として継続していると指摘する。
ハーンは、こうした非リベラルな思想は単なる例外的逸脱ではなく、アメリカ民主主義の内部に組み込まれてきたものだと主張する。民主主義と排除の論理は、時に同じ政治家の中に共存しており、たとえばFDRやリベラル派も状況次第で排外的な決断を下してきた。政治的秩序の維持や文化的同質性への欲求が、自由や平等と衝突する局面は歴史を通じて繰り返されてきた。トランプはこの潮流の中でも極端な存在だが、彼の言動が支持を集める背景には、常に存在してきた共同体防衛的な感情と、既存秩序への不信感がある。
最後に、クラインとハーンは、自由主義(リベラリズム)そのものの限界と再構築の必要性を語る。自由や権利が過去の激しい闘争の成果であることを忘れず、リベラルな秩序が常に再交渉されるべきものであると認識すべきだと強調する。トランプの台頭やアメリカ社会の分断は、歴史の反復ではなく、自由と排除の力学が常に交錯してきたアメリカという国の深層構造そのものの表出であるという認識が、この対話の核心となっている。
デザインへの誤解を解く:経営者が認識すべきデザインの本質とAIの影響
AIツールの普及は、デザイン経験のない経営者がAIに簡単な指示を与えるだけで成果物を得られるため、自身が関与したデザインを過大評価し、専門デザイナーの価値を軽視する傾向を生んでいる。これにより、デザインという職能自体が組織から排除される可能性をデザインリーダーは懸念している。AIがデザイン作業のあり方を変えるだけでなく、デザイン部門そのものの存続に影響を与えかねない。
多くの経営者は、デザインを単に美しいユーザーインターフェース(UI)と同一視し、その背後にある戦略的リサーチや設計思考の重要性を見過ごしている。また、「デザインは開発を遅らせる」「ユーザーは製品体験を重視しない」といった誤解も根強い。特に、「デザインは測定不可能なソフトスキルである」という誤解は深刻で、実際にはタスク完了時間、ユーザー定着率、離脱率といった具体的なビジネス指標の改善に直接貢献し、今日のテクノロジー企業においてエンジニアリングと同様に不可欠な専門技能であるという認識が欠如している。
デザインはコストではなく、ビジネスを成長させる価値増幅器であり、複雑なシステムに明快さをもたらし、リスクを軽減し、市場における製品の認知を形成し、部門横断的なチームの連携を促進する。デザイナーは、この本質的な価値を経営層に理解させるため、ビジネスの言葉で成果を語り、具体的なデータやユーザーの声を通じてデザインのインパクトを示し、他部門と積極的に連携して組織全体の意思決定に貢献していく必要がある。
ChatGPT Images開発の舞台裏:急成長への対応と技術基盤
OpenAIが2025年3月末にリリースしたChatGPT Imagesは、最初の1週間で1億人の新規ユーザーを獲得し、7億枚の画像を生成するという驚異的な成功を収めた。このトラフィックはOpenAIの予想をはるかに上回り、特にインドでは著名人や首相までもが利用した画像が拡散され、爆発的な人気を博した。ローンチ後も高負荷は継続し、ある1時間には100万人の新規ユーザーがサインアップする事態も発生したが、OpenAIはサービスの完全停止を回避し、アクセス性を優先する対応を行った。
ChatGPT Imagesの画像生成は、まず入力された説明を画像トークンに変換し、デコーダーが複数回のパスを経て段階的に鮮明な画像をレンダリングする仕組みである。このプロセス全体で、コンテンツとコミュニティ基準への準拠が確認される。使用されている技術スタックは、主にPythonとFastAPIで構成され、最適化が必要な箇所にはC言語、非同期ワークフローにはTemporalが採用されている。当初同期処理で設計されていたが、急増する負荷に対応するため、ローンチ後に数日間で非同期処理システムへと迅速に書き換えられた。
予期せぬ高負荷は、ファイルシステムやデータベース、認証システムなど、他のOpenAIシステムにも影響を及ぼした。しかし、以前から進められていたシステム分離の取り組みと、迅速なパフォーマンス改善、キャパシティ増強によって、大規模な障害は回避された。OpenAIは、迅速な機能開発を維持するために、インフラチームが迅速な出荷を最優先事項とし、エンジニア、研究者、プロダクトマネージャー、デザイナー間の役割を柔軟にすることで、このような課題に対応している。
殺害された男性のAIアバターが法廷で証言
404 Mediaのポッドキャストでは、殺害された男性クリストファー・ペルキーのAIアバターが法廷で証言したという異例の事例を取り上げている。彼はアリゾナ州で起きたロードレイジ事件で命を落としたが、家族が彼の画像と音声をもとにAIによって再現し、彼になりきったアバターが加害者への許しの言葉を述べる映像が法廷で上映された。これは被害者側の影響陳述の一環として用いられたものである。
実際には、ペルキー本人の言葉ではなく、妹が文章を執筆し、義理の兄が彼の音声を再現した。外見はAI画像生成ツール「LoRA」とStable Diffusionを使って作られた。家族は、この映像を通して裁判官に強い印象を与えたかったと語っており、目的は「裁判官を泣かせること」だったと明かしている。判決では加害者に対し家族の希望通り最長の刑が言い渡された。
このAI証言に対し裁判官は肯定的な反応を示したが、ジャーナリストたちは死者の言葉として扱われることの倫理的・法的な危うさを指摘した。これは実際には創作であり、本人の意志を代弁するものではない。こうしたテクノロジーの導入により、死後の人格表現や証言のあり方に対する新たな問題が浮き彫りになっている。