カタパルトスープレックスニュースレター準備号
日本が対米投資をやめない理由/ShutterstockとGetty Imagesが合併を検討/ポール・クルーグマンによる現在の中国と90年代日本の比較/AIのハルシネーションが科学の大発見を助ける理由/AIのさらなる発展にはデータ不足が懸念されるなど
日本が対米投資をやめない理由
New York Timesの考察記事。バイデン大統領が日本の日本製鉄によるUS Steel買収を阻止する決定を下した。国家安全保障上の懸念を理由に、150億ドル規模の買収計画は頓挫した。日本製鉄と米国スチールは「政治的に歪められた判断」と強く反発し、法的措置も検討している。しかし、専門家はこの決定が日本企業の対米投資意欲を大きく損なうことはないとみている。むしろ、中国での事業環境が厳しさを増す中、日本企業の米国シフトは加速する可能性が高い。実際、日本は2019年以降、米国への最大の投資国の地位を維持している。トランプ次期大統領の就任後は、関税引き上げリスクを回避するため、日本企業の米国進出がさらに活発化すると予想される。ソフトバンクのように、今後4年間で1000億ドルの投資を約束する企業も出てきた。専門家は「日本製鉄のケースは特殊だ。米国は長年安定した投資環境を提供してきた」と指摘する。一方で中国は日本との関係改善に動いており、11月には短期滞在ビザの免除を再開。日本も中国人観光客へのビザ要件緩和を進めている。こうした動きの背景には、トランプ政権下で米中貿易戦争が激化するとの懸念がある。政治的な逆風はあっても、日本企業の対米投資は継続する見通しだ。(リンク)
ShutterstockとGetty Imagesが合併を検討
Bloombergの報道によると、ストックフォトサービスの大手ShutterstockとGetty Imagesは企業統合の可能性を探っている。この動きはAIによる画像生成技術の台頭が従来の写真ライセンス市場に及ぼす影響を如実に表している。この報道を受けて両社の株価は上昇したものの、1年前と比較すると依然として低水準に留まっている。これはAIがもたらす脅威に対する投資家の警戒感を反映した結果といえる。両社とも黒字経営を維持しているが、成長は鈍化している。特にGetty Imagesは近年、売上高が横ばいから微減で推移している状況だ。時価総額はGetty Imagesが約23億ドル、Shutterstockがその半分程度となっている。ただし、この統合案件は独占禁止法の観点から規制当局の厳しい審査を受けることが予想される。(リンク)(リンク)
Claudeが生成したShutterstockとGetty Imageの株価比較はこちら。
ポール・クルーグマンによる現在の中国と90年代日本の比較
日本の1990年代初頭と現在の中国は、人口動態と経済構造の転換期という点で重要な共通点を持つ。しかし、両国の対応には決定的な違いが存在する。日本は長年の低出生率と限定的な移民政策の結果として生産年齢人口が減少し始めた際、政府は財政支出を通じて国内需要を下支えした。また、それまでの高い投資率を徐々に調整し、消費主導型の経済構造への転換を図った。その結果、生産年齢人口一人当たりのGDP成長率は堅調な水準を維持することに成功した。一方、中国は依然として投資主導型の経済構造から脱却できていない。GDPに占める投資の割合は日本の最盛期をさらに上回る水準にまで上昇し、不動産バブルと過剰生産能力という二重の問題を抱えている。さらに、中国はまだ中所得国であるにもかかわらず、技術革新の伸び率が低下している。日本の政策当局は経済の構造変化を認識し、段階的な調整を進めた。これに対し中国の指導部は、デフレリスクの警告を軽視し、民間部門の活力を抑制する政策を続けている。日本の経験は、人口減少下での経済構造の転換が、適切な政策対応によって管理可能であることを示している。しかし中国は、はるかに大きな経済規模と社会的な課題を抱える中で、この教訓を活かせていない現状にある。(リンク)
AIのハルシネーションが科学の大発見を助ける理由
New York Timesの興味深い記事。AI研究者のエイミー・マクガバン博士は、AIのハルシネーションが科学者たちに新たな発想をもたらし、従来では思いつかなかったアイデアの探求を可能にしたと語る。2024年のノーベル化学賞を受賞したデイビッド・ベーカー博士は、AIのハルシネーションを活用して自然界に存在しない全く新しいタンパク質の設計に成功した。彼の研究室では既に1000万種類以上の新規タンパク質を創出し、がん治療やウイルス感染症対策など、医療分野での活用が期待される100件以上の特許を取得している。カリフォルニア工科大学のアニマ・アナンドクマール教授は、物理学の法則に基づくAIのハルシネーションは、チャットボットと異なり高い精度で現実世界に適用できると指摘する。彼女の研究チームは、この技術を用いて尿路感染症を防ぐ新しいカテーテルの設計に成功した。(リンク)
AIのおかげで採用活動を停止した?実際はまだ多くの求人広告を出している
決済サービスのKlarnaのCEOセバスチャン・シェミアトコフスキーは、過去1年間で従業員数を4,500人から3,500人に減らしたと発表した。また「AIは人間が行うすべての仕事をすでにこなせる」と主張し、ChatGPTが700人分の仕事を代替していると発言。しかし実態は異なる。クラーナは現在も世界中で50以上のポジションで人材を募集している。特にエンジニアリング部門では、必要不可欠な人材の補充を継続している。同社の広報担当者は「CEOの発言は大筋で正しいが、放送インタビューで簡略化しすぎた」と説明。近くIPOを控える同社がAI活用を強調する背景には、投資家へのアピールという側面もある。多くの企業では、AIの導入と実装は依然としてゆっくりとしたペースで進んでいるのが現状。(リンク)
AIのさらなる発展にはデータ不足が懸念される
Natureの記事。AI研究機関Epoch AIの調査によると、2028年頃までにAIの学習に必要なデータ量がインターネット上の公開テキストの総量に達する見込み。これに加え、新聞社などのコンテンツ提供者がAI学習目的でのデータ収集を制限し始めており、状況は一層深刻化している。しかし、OpenAIやAnthropicなどの大手AI企業は、この課題の対策として新しいデータの生成や、従来とは異なるデータソースの活用を進めている。例えば、OpenAIは1日あたり1000億語以上の新規データを生成している。また、より効率的な学習方法の開発も進んでいる。同じデータを複数回学習させることで、新しいデータと同等の効果が得られることが分かってきた。さらに、数学やプログラミングなど、明確なルールのある分野では、AI自身が生成した「合成データ」の活用も進んでいる。(リンク)
BuzzFeedが忘却へピボット
世界を席巻したメディア企業BuzzFeedが急激な衰退を続けている。一時期は9億ドル近い企業価値を誇った同社は、債務返済のため人気番組「ホット・ワンズ」を運営する傘下企業を8250万ドルでジョージ・ソロス率いる企業連合に売却した。BuzzFeedは硬派なニュースからバイラルコンテンツまで手がける新世代メディアとして注目を集め、月間1億5000万人もの読者を獲得。2021年にはピューリッツァー賞も受賞するなど、ジャーナリズムの分野でも高い評価を得ていた。度重なる事業方針の転換と人員削減を経て、現在のBuzzFeedは「ゾンビ企業」と呼ばれるまでに転落。2021年のニュース部門閉鎖に続き、今回の看板番組売却は、かつて輝かしい未来を約束されたデジタルメディアの凋落を象徴する出来事となった。(リンク)
AppleとMeta、相互運用性とプライバシーをめぐる争い激化
EUのデジタル市場法を巡り、AppleとMetaの対立が激化している。AppleはMetaからの15件にも及ぶ相互運用性リクエストに対し、ユーザーのプライバシーとセキュリティを著しく脅かすとして強く反発した。MetaはiPhone上のメッセージ、メール、通話履歴、アプリ使用状況、写真、ファイル、カレンダー、パスワードなど、あらゆる個人データへのアクセスを要求。さらに、iPhoneのミラーリング機能、AirPlay、Bluetooth接続、全てのAppleデバイスへの接続権限まで要求している。欧州委員会は、iOS通知機能やAirDropファイル転送システムの開放、競合他社のスマートウォッチに対するApple WatchやVision Proと同等のアクセス権付与などを提案。関係者からの意見を1月9日まで募集し、3月にはAppleの法令遵守状況を判断する。違反した企業には年間売上高の10%の罰金が科され、極端な場合は事業分割も命じられる可能性がある。(リンク①)(リンク②)(リンク③)
ChatGPT検索とGoogleの比較: 62のクエリを詳細に分析
Search Engine Landによる分析記事。ChatGPTの検索機能はGoogle検索に対して一定の競争力を示していると評価。特に情報検索クエリにおいてはGoogleのスコアが5.83、ChatGPT検索が5.19と僅差の結果となった。一方で、地域検索やナビゲーション検索、商用検索ではGoogleが圧倒的な優位性を持つ。これはGoogleがGoogleマップやWazeなど豊富なローカルデータを保有していることが要因。一方でコンテンツギャップ分析ではChatGPT検索が優位に立った。記事のトピック提案やFAQ作成など、コンテンツ制作に関連するタスクで高いスコアを記録した。また、多義語の解釈においてもChatGPT検索が上回った。ただし、この分析は62のクエリという限定的なサンプルに基づいているため、検索全体の傾向を断定することはできない。(リンク)
生成AIを使わないほうがいい場合
GartnerのYouTubeチャネルより。現在、多くの企業が生成AIを導入しているが、同技術は期待値のピークにあり、実際の能力と期待との間にギャップが存在する。生成AIが特に優れているのは、テキストやコード、画像などのコンテンツ生成、対話インターフェース、知識発見の3分野。一方で、サプライチェーン計画やマーケティング予算配分などの計画・最適化には不向き。また、売上予測や在庫レベルの予測など、将来予測にも適していない。さらに、採用選考などの重要な意思決定や、完全な自律性が求められるシステムにも使用すべきではない。専門家は、生成AI以外の人工知能技術も積極的に活用すべきだと強調。予測型機械学習、シミュレーション、ルールベースシステムなど、従来型のAI技術が依然として有効な選択肢となる。実際、現時点でのビジネス価値の大部分は、生成AI以外の技術から生み出されている。
World(コイン)はEU市民にデータ削除をさせなければならない
欧州連合のプライバシー規制当局が、サム・アルトマンも出資している本人確認のための暗号化通貨技術「World」に対し、厳格なデータ削除命令を出した。同プロジェクトを運営するTools for Humanityは、虹彩データの完全な削除をユーザーが要求できる仕組みを1ヶ月以内に整備するよう求められた。Worldは「World IDは設計上、匿名性が担保されている」と主張し、この命令に対して不服を申し立てる方針を表明した。既にポルトガルやスペインでは、未成年者のデータ収集リスクなどを理由に、同サービスの運営が一時停止に追い込まれている。一方でオーストリアでは新たにサービスを開始するなど、欧州での展開は各国で対応が分かれている現状。(リンク)