カタパルトスープレックスニュースレター
イスラエルのAI兵器運用、ガザで加速/AI可視性ピラミッド/Microsoft、過去の失敗から学び未来をデザイン/monday.comのARR10億ドルへの道/AIの進化と市場動向/a16zを巻き込む大規模スパイ騒動/など
イスラエルのAI兵器運用、ガザで加速 — 成果と倫理課題
イスラエルはガザ戦争で、人工知能(AI)技術を本格的に実戦投入し、その倫理的懸念が高まっている。背景にはハマス幹部イブラヒム・ビアリの暗殺作戦があり、イスラエルの諜報機関は彼の居場所特定にAIを活用した音声解析ツールを使用。これによりビアリは殺害されたが、同時に125人以上の民間人が犠牲となった。
イスラエルは他にも、AIと顔認識技術の組み合わせによるターゲット特定、アラビア語LLM(大規模言語モデル)を用いた情報解析チャットボット、ドローン自律追尾技術などを急速に開発・運用。特に技術革新の中核には、Unit 8200の兵士と、Google、Microsoft、Metaなど民間テック企業の予備役エンジニアたちが連携する「スタジオ」と呼ばれる組織が存在した。
しかしこれらAI技術の実戦使用は誤認識や誤逮捕、さらなる民間人死傷を引き起こし、内部でも倫理的な懸念が浮上。専門家は「AIにはチェックとバランスが必要で、最終判断は人間が下すべき」と警鐘を鳴らす。欧米の防衛当局者によれば、イスラエルほどリアルタイム戦闘でAIを大規模投入した国は他になく、今後の戦争におけるAI活用の可能性と危うさを示す例となっている。
イスラエル軍はビアリ暗殺に関する調査中とし、個別技術へのコメントを控えているが、「データ技術の合法的かつ責任ある利用に努めている」と述べた。
AI可視性ピラミッド: AI検索で存在感を高める方法
AIによる検索が存在感を増す中、「AI可視性ピラミッド」と呼ばれる新たなマーケティング概念が企業のAI検索対策の枠組みとして提案されている。このフレームワークは、企業がAI検索環境で存在感を高めるための階層的アプローチを提供するものだ。
従来のSEO対策は今でも重要な基盤だ。高品質なコンテンツ、強力なバックリンク、一貫したメッセージング、適切な更新戦略がその要素となる。Sparktoroのデータによれば、2024年にはGoogleはChatGPTの370倍以上の検索数を記録した。GoogleのAI Overviewsに引用されるソースの52%から99%は検索結果のトップ10にランクインしている。
次の層は「コンテキストとコンテンツ戦略」だ。AIが自社ブランドや競合をどのように言及しているかを理解することが重要となる。顧客が購買過程で尋ねる質問をAIに投げかけ、AIの回答とその情報源を分析するとよい。AIが引用するソースに自社ページがない場合、それはコンテンツのギャップを埋める機会となる。
最上層は「信頼性と権威の信号」だ。Redditやレビューサイトなどのプラットフォームでの評判がAIの回答に影響を与える。オンライン討論への参加、レビューサイトでの積極的な対応、製品ディレクトリへの登録、デジタルPRの展開などが効果的だ。
AI検索は急速に進化しているが、このピラミッドの基本原則は持続性がある。SEOの基盤強化、引用価値のあるコンテンツ作成、web全体での信頼性の向上に継続的に取り組むブランドは、AI時代においても競争力を維持できるだろう。
(Animalz)
Microsoft、過去の失敗から学び未来をデザイン
マイクロソフトは今年50周年を迎える、歴史を持つ大企業だが、近年そのデザイン哲学を大きく変革した。かつて製品チームは互いに競い合い、独立して秘密裏に開発を進めていたため、製品間の統一感が欠如していた。しかし今、同社は「オープンデザイン」という新しい哲学を採用し、会社全体でアイデアを共有し、製品を統合し、より早く失敗することで学ぶアプローチを取り入れた。
この変革の中心には「Fluent Design」という新しいデザインシステムがある。これは単一製品のためではなく、数億人のユーザーに向けた何百もの製品に適用できるよう設計された。マイクロソフトのデザイナーたちは現在、製品の垣根を越えて協力し合い、Xboxのデザイナーが次世代Xboxだけでなく新しいSurface製品も設計するなど、柔軟な体制を取っている。
この変化はGoogle、AppleなどのライバルやDropbox、Slackなどの新興企業による脅威が大きな影響を与えた。マイクロソフトは従来の数年に一度のソフトウェアリリースから、短期間の「スプリント」によるアジャイルな開発モデルへと移行し、基本的な機能を先に構築し、その上に機能を追加していく方法を採用した。
さらに、オープンソースの積極的な活用や、ハードウェアとソフトウェアを数分でプロトタイプ化できる新ツールの開発により、製品開発のスピードを大幅に向上させた。「より多くの社員が、新しいことに挑戦し、学び、その学びを次に活かすことで評価される文化を構築している」とマイクロソフトのデザイン・リサーチ担当副社長、ジョン・フリードマンは語る。
monday.comのARR10億ドルへの道
monday.comは、競合のスピードに危機感を抱いたことをきっかけに、大きな変革を遂げた。チーフプロダクト&テクノロジーオフィサーのダニエル・アラは、従来の「機能を作ること」に満足せず、インパクトを出すまでやり抜く文化を作り上げたと語る。象徴的だったのは、かつて1機能追加に4か月かかっていたチームが、30種類の新しいカラムを1か月で作り上げた挑戦である。これにより「できない」と思い込んでいた限界を突破し、チーム全体の思考と行動様式が劇的に変わった。
また、徹底的な情報開示も重要な文化として根付いている。未公開企業だった当時から、社内には契約数、解約数などのリアルタイムダッシュボードが掲示され、社員全員が事業のリアルな状況を把握できるようにしていた。問題が起きれば一緒に考え、成功すれば全員で喜ぶ仕組みが作られていた。上場後もこの精神を守るため、独自の運用ルール(10b5-1プラン)を整備して透明性を維持している。
プロダクト開発では、何を作るかではなく、顧客にどんな変化をもたらすかを最重要視している。例えばAI機能リリース時には、数値を毎日モニタリングし、発見した課題(利用対象の限定)に迅速に対応、2週間で全顧客に開放した。単なる機能開発ではなく、実際の顧客インパクトを基準に行動する体制が確立されている。
大胆なリスクテイクもmonday.comの特徴である。既存のプロジェクト管理市場に留まらず、CRMなど5つの新製品を同時に発表。一部は統合されたが、大成功した製品も生まれた。失敗を恐れず、大きな賭けに出ることで、さらなる成長を引き寄せた。
最後にアラは、成長に伴い自分の役割や強みもアップデートする必要があると語った。リーダーも常に学び、進化し続ける覚悟が必要だという。今のやり方に固執しない勇気こそ、monday.comが飛躍できた最大の理由だった。
AIの進化と市場動向:グラフから見える革命の実態
ウォールストリートジャーナルが公開した最新記事によれば、AIは今やインターネットに匹敵する変革をもたらしている。OpenAIが2022年11月にChatGPTを「控えめな研究プレビュー」として公開して以来、生成AI革命が本格化した。現在ChatGPTは月間約3億人が利用する最大のAIチャットボットとなり、DeepSeek、Google Gemini、Microsoft Copilotなどの競合も急速に成長している。
AIの基盤となる大規模言語モデルの開発には膨大な計算資源が必要であり、NVIDIAのチップが重要な役割を果たしている。Amazon、Meta、Microsoftなどの巨大テック企業とAnthropicやPerplexityなどのスタートアップが「フレネミー(友人であり敵)」の関係を形成し、新たなエコシステムを構築中だ。
四半期ごとの設備投資は、Amazon、Microsoft、Alphabet、Metaの4社だけで750億ドルに達し、OpenAIは最近Oracleやソフトバンクと共同で5000億ドル規模のデータセンターネットワーク「Stargate」構想を発表した。ゴールドマン・サックスによれば、今後数年間でAIインフラ構築に向けた投資は1兆ドルに達する見込みだ。
AI企業間の性能競争も激化しており、ベンチマーク企業Artificial Analysisによれば、かつてOpenAIが持っていた圧倒的優位性は縮小し、GoogleやDeepSeekなどの競合モデルが急速に追いついている。近い将来、多くのモデルが同等の知能を持つ可能性があり、そうなれば競争は最終的にコスト、速度、信頼性の戦いになる。
a16zを巻き込む大規模スパイ騒動
米国シリコンバレーで人事ソフトウェア企業間の産業スパイ騒動が激化している。ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」が出資するDeel社が競合のRippling社に関する内部情報を得るためにスパイを雇った疑いが浮上した。アイルランドの裁判所で告白したスパイによると、Deel社CEOのアレックス・ブアジズとその父で会長のフィリップから毎月約6,000ドルを受け取っていたという。
全面対決に発展した両社の争い背景には、Rippling社CEOのパーカー・コンラッドが約10年前に創業した前企業からアンドリーセン・ホロウィッツによって追い出された過去が絡んでいる。総額126億ドルと評価されるDeel社の約20%を保有するベンチャーキャピタルにとって、約25億ドル相当の投資が危機にさらされている状況だ。
Deel社はスパイ疑惑を否定し、Rippling社による「中傷キャンペーン」と主張して逆提訴。最近のシリコンバレーでは創業者を擁護する風潮が強まっており、アンドリーセン・ホロウィッツのパートナーであるアニシュ・アチャリヤは「常に創業者の判断を尊重する」とこれまで述べていた。この産業スパイ騒動は、創業者優先主義の限界も問われている。
インターネットの40%を一人の人間が支配する危険性
マレンウェグは2000年代初頭、19歳でWordPressを開発した。現在このシステムは世界中の約8億1000万のウェブサイトを支える最も人気のあるオープンソースCMSとなっている。
2024年9月、マレンウェグはWordPressホスティング会社WP Engineに対し「オープンソースへの貢献が少なく、WordPressブランドを不当に利用している」と非難した。これに対しWP Engineは警告を送付。報復としてマレンウェグはWP EngineからのWordPressアクセスをブロックし、同社の顧客はウェブサイトの更新ができなくなった。
さらにマレンウェグは、問題のある手段でWP Engine開発のACFプラグインを自社のAutomatticに取り込んだ。この争いは現在も裁判で継続中だ。
オープンソース界では「善意の独裁者」という概念があり、開発者が無料で作品を配布しながらも独占的な権利と管理を保持するが、その行動はコミュニティを助けることを目的とするべきという原則がある。これまでうまく機能していたが、マレンウェグの行動によりその原則が揺らいでいる。
彼は年間5億ドルを稼ぐAutomatticのCEOでありながら、直接の競合であるWP Engineを攻撃。オープンソースコミュニティの尊敬される人々からも非難を受けているが、対応はさらなる侮辱となっている。
この争いはWordPressだけでなく、オープンソースソフトウェアの概念全体に大きな打撃を与えた。多くの専門家はWordPressからマレンウェグの影響力を分離するためのフォーク(分岐版)の可能性を示唆している。