カタパルトスープレックスニュースレター
ネットから個人情報を削除する方法/Figmaでの10年から学んだ10の教訓/YouTube 20周年:動画共有サイトから巨大メディア帝国へ/MCPが変えるAIの未来:主導権はクライアントにあり/結果を出す逆張りマーケティング戦略10選/など
ネットから個人情報を削除する方法
あなたの個人情報は、あなたが思う以上にインターネット上に流出している可能性が高い。住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、さらには家族の名前まで。Googleが提供する「あなたに関する検索結果」ツール(日本はまだ未対応)を使えば、その現実が明らかになるだろう。
なぜこれらの情報を放置してはいけないのか? 理由は明白だ。容易に入手できる個人情報は、迷惑メールの増加はもちろん、個人情報の盗難、なりすまし詐欺、嫌がらせ、そして悪意ある暴露行為である「ドキシング」のリスクにあなたを晒す。特に著名人や公職にある人々にとっては深刻な問題だが、一般個人も決して他人事ではない。
これらの情報はどこから来るのか? 交通違反の切符、住宅の購入記録、国勢調査への回答、選挙人登録といった公的な記録に加え、クレジットカードの申し込み、雑誌の購読、製品保証書の登録など、日常的な行為を通じて収集されている。
問題は「データブローカー」と呼ばれる業者の存在だ。彼らはこれらの公的記録やSNSプロフィールなどを収集し、個人の詳細な情報パッケージを作成・販売している。このような業者は数百も存在すると言われる。多くはオプトアウト(情報削除の要求)手続きを用意しているが、データベースが更新されるたびに、削除したはずの情報が再び現れることも少なくない。
では、どうすればいいのか?
現状把握: まず、Googleで自分の名前や居住地域を検索してみる。SpokeoやWhitepagesのような人物検索サイトに、あなたのプロフィールが見つかるかもしれない。
Googleツールの活用: Googleアカウントの「マイアクティビティ」(myactivity.google.com)内にある「あなたに関する検索結果」ツールを使う。ここで、あなたの個人情報が表示されている検索結果を確認し、Googleにその結果の削除をリクエストできる。
削除代行サービスの検討: DeleteMeやOpteryのような専門サービスを利用する方法もある。これらのサービスは、完全に情報を消し去ることはできないものの、データブローカーのサイトからあなたの情報を見つけにくくする手助けとなる。ただし、継続的な監視と削除依頼が必要だ。
データブローカーが収集する情報は年々詳細化しており、友人、家族、子供のリスト、位置情報、さらには車のナンバープレートや購入履歴まで含まれるようになっている。
インターネットから完全に自分の痕跡を消すことは不可能に近い。しかし、リスクを低減するために、積極的に情報を検索し、削除を要求し続けることが、今の時代に求められる自己防衛策である。
Figmaでの10年から学んだ10の教訓
Figmaで過ごした10年間。それは、従業員10人から1400人へ、ユーザーゼロから数百万へとスケールする、まさに私のキャリアを定義する時間であった。初のマーケティング・ビジネス担当としてゼロから組織を立ち上げ、プロダクトマーケティングからコミュニティ、ブランド戦略までを築き上げる中で得た学びは多い。ここに、その10の教訓を記す。
独自の戦略を立てよ 対象者を深く理解し、彼ら専用の戦略をゼロから作るべきだ。特にデザイナーのような専門家には、従来のB2B定石は通用しない。彼らが本当に気にするのは「機能」そのものである。信頼できる実践者を前面に出し、彼らの言葉で語ることが重要だ。
成長は人との繋がりから生まれる 一見、非効率に見える一人ひとりとの人間的な繋がりこそが、結果的にスケールする熱狂的な支持を生む。顧客の課題に真摯に向き合い、信頼を地道に積み重ねることが、コミュニティ主導型成長の核となるのだ。
直感を使いこなせ 未知の領域を開拓する際、頼りになるのは自身の直感だ。しかし、その強みと限界を知ることが肝要である。直感が確かな時はそれを信じ、迷う時は信頼できる仲間の直感を借りるべきだ。
指標を崇拝するな 指標はあくまでツールであり、目的ではない。測定可能な数値に囚われ、本当に重要なことを見失ってはならない。特にコミュニティのような定量化しにくい価値を信じ、守るリーダーシップが不可欠だ。
行動が戦略を生む 完璧な計画を待つのではなく、まず行動を起こすことだ。小さな実践的な決断を積み重ねる中で、大きな戦略は自ずと姿を現す。「まずやってみる」勇気が、停滞を打ち破る。
「緊急プロジェクト」を最優先せよ 日常業務に埋没せず、事業にとって今最も重要な「緊急プロジェクト」には、全リソースを集中投下すべき時がある。従来の役割分担を一時的に忘れ、一丸となって取り組むことで、大きな飛躍が生まれる。
「楽しさ」を忘れるな チームが心から楽しめるプロジェクトは、そのポジティブなエネルギーがコミュニティに伝播し、強いブランドへの愛着を育む。効率化の名の下に、「楽しさ」という重要な要素を排除してはならない。
良い点に目を向けよ 常に改善点を探すだけでなく、今ある価値や組織の素晴らしさに意識的に目を向け、感謝し、それを守る努力をすべきだ。現状を肯定的に捉える視点が、チームの士気と一体感を高める。
燃え尽きは防げる 燃え尽きの真の原因は、単なる過重労働ではなく、仕事における「充実感の欠如」にある。競争ではなく協働を選び、仲間と共に創り上げることに喜びを見出すことで、困難な時期も乗り越えられる。
終わりの時を知れ どんな素晴らしい章にも、終わりは訪れる。自身の直感がその「時」を告げたなら、それに耳を傾けるべきだ。感謝と共に一つの区切りをつけ、次の章へ進む勇気を持つことが大切である。
この10年間の学びは、Figmaという特別な場所と、そこで出会ったコミュニティ、そして仲間たちへの深い感謝と共にある。私のFigmaでの時間は終わるが、その輝かしい未来を心から応援している。
YouTube 20周年:動画共有サイトから巨大メディア帝国へ
2025年4月23日、世界最大の動画プラットフォームYouTubeは設立20周年を迎えた。2005年に投稿された「Me at the zoo」という短い動物園の動画から始まったこのサービスは、今や私たちの情報収集やエンターテイメントのあり方を根本から変える巨大なメディア帝国へと成長したのである。
当初、YouTubeはデジタルカメラで撮影した動画を簡単に共有する手段として考案された。しかし、「Lazy Sunday」のようなバイラルコンテンツの登場や、才能あるクリエイターの発掘(Justin Bieberなどが有名)により急速に人気を獲得。2006年にはGoogleによって16.5億ドルで買収され、その成長はさらに加速した。「Gangnam Style」が初の10億回再生を達成し、ASMR、Unboxing、VTuberといった新たなジャンルが生まれるなど、YouTubeは常にオンライン文化の中心であり続けているのだ。
専門家の分析によれば、もしYouTubeが独立企業であればその価値は5500億ドルにも上る。2025年には収益面でディズニーを抜き、世界最大のメディア企業になる。その成功の根幹には、膨大な動画ライブラリ、ユーザーの好みを学習する強力なレコメンデーションエンジン、そしてクリエイターへの積極的な収益分配(2021年から4年間で700億ドル以上)がある。広告収入に加え、Premium、Music、YouTube TVといったサブスクリプションサービスも重要な収益源である。
現在のYouTubeは、単なる動画共有サイトの枠を超えている。TikTokに対抗する短尺動画「Shorts」、従来のテレビ放送に対抗する「YouTube TV」、音楽ストリーミングの「Music」、ポッドキャスト配信、さらには「Playables」というゲーム機能まで提供する、まさに「オールインワン」のエンターテイメントプラットフォームへと進化を遂げたのだ。
しかし、その巨大さゆえの課題も存在する。TikTokとの熾烈な競争、各国での独占禁止法に関する調査、フェイクニュースや不適切コンテンツへの対策などは、YouTubeが今後も向き合い続けなければならない問題である。未来に向けて、YouTubeはAIを活用した自動翻訳や動画生成支援、ゲーム分野のさらなる強化などを通じて、コンテンツの量とリーチを拡大し、エンターテイメント業界における支配的な地位をさらに強固なものにしていく。
20年という節目を迎え、YouTubeが私たちの生活や文化に与えた影響は計り知れない。今後、このプラットフォームがどのように進化し、私たちの未来を形作っていくのか、引き続き注目していく。
(CNBC)(The New York Times)(The Verge)
MCPが変えるAIの未来:主導権はクライアントにあり
MCP(Model Context Protocols)は、大規模言語モデル(LLM)と外部サービスを接続する標準APIであり、LLMにリアルタイム情報アクセスやアクション実行といった「超能力」を与える技術である。これにより、LLMは単なるチャットボットからエージェントへと進化する可能性を持つ。
しかし、MCPはまだ実験段階にあり、ユーザーエクスペリエンスやセキュリティには課題が多い。現状でより重要なのは、この新しいエコシステムにおける力学である。MCPサーバー(外部サービス側)が機能を提供する一方で、どのツールが使われ、どう表示されるかの主導権を握るのは、ChatGPTやClaudeのようなLLMインターフェース、すなわちクライアント側なのだ。
将来的に、MCPエコシステムは検索エンジンとアプリストアを組み合わせた形で発展することが予想される。大手LLMプロバイダーが新たなゲートキーパーとなり、表示・利用されるMCPを管理し、そこから収益を得るだろう。ユーザーの多くはデフォルト設定に依存するため、どのサービスがデフォルトに選ばれるかが極めて重要となり、企業間の競争と有利なパートナーシップを生む。クライアントは新たなOSとなり、MCPサーバーはその上で動くアプリのような役割を担う。
結論として、MCPはLLMの能力を飛躍的に高めるが、その未来を形作り、エコシステムを支配するのは、技術そのものではなくクライアントである。この力学を理解することが、今後のAIの動向を見通す上で不可欠だ。
結果を出す逆張りマーケティング戦略10選
マーケティングの定石が常に正しいとは限らない。むしろ、非常識とされる戦略こそが、今、顧客を掴んでいる。データが証明する、常識破りだが効果実証済みの10の戦略を公開する。
「醜い」広告は勝つ:洗練されていない、未完成に見える広告の方が注目を集め、クリックされる。
即決顧客は優良顧客:早く購入する顧客ほど、生涯価値は高い。スピードを報酬で評価せよ。
「摩擦」が転換を生む:あえて小さな手間(クイズ等)を加えることで、顧客のコミットメントと価値認識が高まる。
リードは「質」が命:反応のない購読者は削除せよ。少数精鋭のリストが利益を生む。
ネガティブ訴求は強い:問題点や回避すべき点を指摘する見出しは、ポジティブなものより人を動かす。
視線で誘導せよ:広告内の人物の視線をCTAに向ける。それだけでクリック率は上がる。
端数価格は信頼の証:具体的な価格(例:9,780円)は、計算された印象を与え、信頼につながる。(要テスト)
小さな「イエス」から始めよ:簡単な要求で一度「イエス」を得れば、次の大きな要求も通りやすくなる。
フォローアップは速度最優先:リードへの対応は、パーソナライズよりスピードが重要。1時間以内が鉄則だ。
小さいCTAも有効:大きなボタンが常に最良ではない。控えめなCTAが信頼を得てクリックされることもある。
これらの戦略は、単なる奇策ではない。結果を出すための本質だ。定石を疑い、テストし、自社にとっての「正解」を見つけ出すこと。それが成長への最短距離である。
ベンチャーキャピタルはイノベーションを殺すのか?インディー・スタートアップ時代の夜明け
ベンチャーキャピタル(VC)はイノベーションの資金提供者であると同時に、イノベーションのあり方そのものを規定している。しかし、現在のVCシステムは機能不全に陥っている。スタートアップに対し、真の問題解決やイノベーションを犠牲にしてまで、持続不可能な急成長を強いているのだ。投機的な誇大広告ではなく、真の価値を評価するスタートアップ・エコシステムこそが、我々の経済をより良くする。
テクノロジー自体が問題なのではない。問題はVCの仕組みにある。VCは「パワー・ローの法則」に従う。つまり、投資先の多くが失敗する前提で、ごく一部の大成功(ユニコーン)によって莫大なリターンを得るモデルだ。この法則が、かつてはリスクテイクの結果を示す観察指標だったものが、いつしか投資判断を導く至上命題となった。
その結果、VCは企業が社会にとって有益か、利益を生むか否かに関わらず、ひたすら規模拡大のみを追求させる。健全な成長が見込めたはずの企業も、非現実的な成長を強いられ、コスト削減のために労働者を搾取したり、未完成な製品を市場に出したり、規制を回避したりする。最終的に、多くは破綻する。これは価値創造ではなく、破壊である。
さらに深刻なのは、VCが資金を提供「しない」企業の問題だ。VCモデルに合わない、つまりユニコーンにはなれないが、堅実で社会に貢献する可能性のあるビジネスは、資金調達の機会を奪われる。住宅やクリーンエネルギーなど、革新が急務な分野でこそ、VCのハイパーグロース要求は適合しない。VCは有望なビジネスを市場から締め出しているのだ。
しかし、変化の兆しはある。VCのユニコーンモデルを拒否し、利益を上げ、持続可能な会社を目指す「インディー・スタートアップ」の動きだ。クラウドファンディングなどで資金を調達し、VCに頼らず成功する企業も現れている。高金利時代を迎え、VCも無制限に資金を投下できなくなった今こそ、転換の好機である。
投機的な誇大広告ではなく、真の価値が報われるスタートアップ・エコシステムを構築しなければならない。VCの呪縛から逃れ、「インディー・スタートアップ」の時代を築くこと。それこそが、テクノロジーだけでなく、経済全体を健全化する道筋なのだ。
警察がAIボットで監視活動強化
米国の警察当局がAIボットを使った新たな監視システムを導入していることが明らかになった。「Massive Blue」という企業が開発したこのシステムは、オンライン上に偽のAI生成キャラクターを作り出し、容疑者と接触させる仕組みだ。このAIボットは、児童性的搾取の容疑者を特定するための「14歳の少年」や、抗議活動を監視するための「36歳の離婚女性」など、様々なペルソナを持っている。特筆すべきは、大学での抗議活動など、憲法で保護された活動の監視にも使用されている点だ。
この企業の中心人物はアリゾナ州の国境警備隊出身で、不法移民対策としての側面も強い。既にアリゾナ州のペノール郡警察がこのシステムを36万ドル(約5500万円)で導入したが、これまでのところ逮捕につながった事例はゼロだという。
専門家からは、このシステムが一日でヒューストン市だけで140万人以上の「人身売買容疑者」を検出したという数字に疑問の声が上がっている。誤検出の可能性が非常に高く、市民の権利侵害につながる恐れがあるとの指摘だ。にもかかわらず、警察はこのような効果が疑わしい監視ツールに多額の税金を投入し続けている。