カタパルトスープレックスニュースレター
英国、オンラインショッピングの「隠れ手数料」と偽レビューを全面禁止
英国政府は4月6日から、オンラインショッピングにおける「隠れ手数料」と偽レビューを全面的に禁止する新法を施行した。この法律は消費者に年間22億ポンド(約4400億円)の損失をもたらしていた悪習を根絶するものだ。
新ルールでは、チケット予約料や管理費など全ての必須手数料を商品の見出し価格に含めることが義務付けられた。これまで多くの業者が決済プロセスの最終段階で追加料金を表示する「ドリップ価格設定」と呼ばれる手法を使用していたが、今後はこうした行為が禁止される。この規制は食品配達サービスやチケット予約プラットフォームなど幅広い業種に適用される。
また偽レビューの使用も禁止され、ウェブサイト運営者には自社サイト上の虚偽のレビューを防止・削除する法的義務が課せられた。これにより、高評価の偽レビューによって消費者が低品質の商品やサービスを購入させられるリスクが軽減される。
英国の雇用権・競争・市場担当相であるジャスティン・マダースは「この変更により消費者はより大きな力と自分のお金に対する管理権を得る」と述べた。
流出した従業員ハンドブックから読み解く世界駅に人気のYouTuber成功の秘訣
アメリカで3億7000万人以上の登録者を持つYouTubeスターのMrBeast(本名ジェームズ・ジミー・ドナルドソン)の社内ハンドブックが流出した。彼は巨額の賞金や島をプレゼントする企画で世界的に人気を博している。
このハンドブックには、MrBeastの成功を支える9つの重要な原則が記されている。まず「重要な要素」への徹底的なこだわりがある。動画の成功に不可欠な要素を特定し、すべてのリソースをそこに集中させる。また、視聴者の注目を科学として扱い、視聴維持率を秒単位で分析。3分ごとに「再エンゲージメント」のポイントを計画的に配置している。
興味深いのは、予算の制約を逆手に取る発想だ。20,000ドルの賞金よりも、1,825袋のドリトスの方がインパクトがあるという判断は、「制約が創造性を高める」という彼らの信念を示している。
彼らは外部の専門家を積極的に活用する。「世界最大のケーキ」を作る場合、前回の記録保持者に相談することで、一から学ぶ時間を節約している。創造性についても独自の考え方を持ち、「インスピレーション」を待つのではなく、アセンブリラインのように量産する方針を取る。
成長へのこだわりも徹底しており、新しい動画は過去10本と競争させ、平凡な出来を許さない。彼らは自分たちのコンテンツが幅広い層に見られていることを認識しつつも、特定のカテゴリーでの「MrBeast」になることが重要だと説く。
また、インプットの質にもこだわり、スタッフはNetflixの代わりにYouTubeを見ることを推奨される。最後に、シンプルさの重視。ルールブックは12歳でも理解できる言葉で書かれており、その明快さに力がある。
MrBeastのチームは、人間の注目を科学に、創造性を量産ラインに、そして成長を数学的な確実性に変えている。彼らの原則は様々な業界で応用可能だ。
企業の技術戦略に与える5つの重要インサイト
スタンフォード大学の人間中心AI研究所(HAI)が2025年版AI指標レポートを発表した。このデータ駆動型分析によると、米国は2024年に40の注目すべきAIモデルを生み出し、中国の15モデル、欧州の3モデルを大きく上回った。AIモデルのトレーニング計算能力は約5ヶ月ごとに倍増し、データセットサイズは8ヶ月ごとに倍増するなど、AIの発展スピードは加速している。
最も注目すべき点は高品質AIの急速な低コスト化だ。GPT-3.5レベルのAIモデルの推論コストは、2022年11月の100万トークンあたり20ドルから2024年10月には0.07ドルへと、わずか18ヶ月で280分の1に激減した。さらに、クローズドモデル(GPT-4など)とオープンモデル(Llamaなど)の性能差も2024年1月の8.0%から2025年2月には1.7%まで縮小した。
企業のAI導入率は78%(2023年の55%から上昇)に達したが、実際のビジネス価値創出はまだ遅れている。生成AIを活用した戦略・企業財務部門の47%が収益増加を報告したが、多くの場合5%未満の増加に留まる。サプライチェーン・在庫管理に生成AIを導入した組織の61%がコスト削減を、戦略・企業財務に導入した70%が収益増加を報告し、特定の業務機能ではより大きな財務リターンが見られる。
AIは労働力の生産性に関して興味深い影響を示している。カスタマーサポートでは、低スキル労働者は34%の生産性向上を経験したが、高スキル労働者ではほとんど改善が見られなかった。コンサルティング(43%対16.5%)やソフトウェアエンジニアリング(21-40%対7-16%)でも同様のパターンが観察された。
AI関連リスクへの認識が高まる一方で、対策実施には大きなギャップがある。サイバーセキュリティをAI関連リスクと考える組織は66%だが、実際に対策を講じているのは55%のみだ。AI関連インシデントは2024年に56.4%増加し、記録的な233件に達した。企業はAI戦略において、測定可能なROIに焦点を当て、責任あるガバナンスを確立し、労働力能力の向上にAIを活用することが求められている。
「米国史上最大の貿易ショック」~ポール・クルーグマンが語るトランプの関税政策
米国で大規模関税が発動された「解放の日」について、ノーベル経済学賞受賞者でニューヨークタイムズの元コラムニスト、ポール・クルーグマンがリベラルな視点から分析した。
トランプ政権は各国に異なる関税率を設定し、その計算方法は「二国間貿易赤字を輸入額で割り、それを相手国の実質関税率とし、さらにその半分の率を課す」というもの。クルーグマンはこの方法に経済的根拠がないと指摘した。
特に問題なのは政策の予測不可能性と不安定さだ。米国製造業は既にカナダ・メキシコと統合された北米製造網を構築しており、この関税政策が混乱を招く。EUと英国に異なる関税を課せば、原産地規則の複雑な書類手続きが必要になり、コスト増加につながる。
この関税政策を正当化する理由も一貫性がなく、「製造業復活」「交渉材料」「税収確保」など複数の説明が混在している。クルーグマンは「全ては後付けの理屈だ。トランプが関税を望み、周囲がそれに応えているだけだ」と述べた。
製造業雇用の減少は主に貿易赤字ではなく、自動化と生産性向上によるものであり、仮に貿易赤字を解消しても、雇用は10%から12.5%程度しか増えないと分析している。
また、安全保障を理由に挙げるなら、バングラデシュからの衣料品輸入に高関税をかけるよりも、バイデン政権のCHIPS法のような戦略的政策が効果的だとクルーグマンは主張する。
米国の繁栄を支えてきた「パックス・アメリカーナ」は、敵を略奪せず復興させ、同盟国と協力する「控えめで寛大な帝国」だった。しかし今回の政策は「国家安全保障を強化するために、国家安全保障のために築かれた体制を破壊している」という皮肉な状況を生み出している。
クルーグマンによれば、世界の基軸通貨としてのドルの役割と米国の貿易赤字の関係は、一般に考えられているより小さく、貿易赤字の主因は米国が投資先として魅力的であることだという。
Shopify CEOが新規採用前にAI検討を義務化
Shopify創業者兼CEOのトビ・リュトケは社内メモを通じ、新たな人員採用を要求する前に「なぜAIでは対応できないのか」を証明するよう社員に指示した。この方針は社内外に大きな波紋を広げている。リュトケはソーシャルメディアで公開したメモの中で「チームが新たな人員や資源を要求する前に、なぜAIを使ってその業務が完了できないのかを示さなければならない」と明言した。
さらに同CEOは「AIエージェントがすでにチームの一員だったら、この部門はどのように機能するか」という問いを投げかけることで、革新的な議論やプロジェクトが生まれると主張している。Shopifyでは「反射的なAI活用」が基本的な期待事項となり、パフォーマンスレビューにもAI活用に関する質問が追加されるという。
この動きは、国連の報告書がAIにより世界中の職業の40%以上が影響を受ける可能性があると指摘する中で物議を醸している。決済サービス大手KlarnaのシーミアトコウスキーCEOも同様の姿勢を示し、AIチャットボットが700人分のカスタマーサービス担当者の仕事をこなせると自慢している。Shopifyは2023年に従業員の20%を解雇しており、AI重視の方針が雇用にさらなる影響を与える可能性もある。
(TechCrunch)(Fast Company)(The Verge)
Google、AI人材の争奪戦で異例の施策
Googleが一部のAIスタッフに対し、競合他社に移籍させないために最長1年間、実質的に何もさせず給与を支払う対策を取っていることが明らかになった。Business Insiderの報道によると、Google傘下のDeepMindは英国の一部AIスタッフに「積極的な」競業避止契約を課している。
この契約は最大1年間、競合他社での勤務を禁じるもので、その間も給与が支払われる仕組みだ。しかし、研究者たちはAI進化の激しいペースから取り残されたと感じる事態が生じている。米国ではFTCが昨年、ほとんどの競業避止契約を禁止したが、この規制はDeepMindのロンドン本部には適用されない。
先月、MicrosoftのAI部門責任者はSNSで、DeepMindのスタッフが競業避止条項から逃れる難しさに「絶望」して連絡してきていると投稿した。Googleは競業避止契約を「選択的に」使用していると説明している。Google、OpenAI、その他大手企業間でのAI人材獲得競争は依然として熾烈を極めている。
終焉に向かうボイジャー計画:NASAプロジェクト科学者が直面する厳しい選択
1977年に打ち上げられたボイジャー探査機は、太陽系の境界を越え宇宙空間を探査し続けている歴史的ミッションだ。プロジェクト科学者リンダ・スピルカー氏がGizmodoのインタビューで明かしたところによると、この偉大なミッションは今や深刻な電力不足に直面している。
探査機は毎年約4ワットの電力を失っており、科学機器の多くはすでに電源を切られた。当初各探査機に搭載されていた10個の機器は現在わずか3個となり、さらに1年以内に2つの機器の電源を切る必要がある見込みだ。
1970年代の技術で作られた探査機の運用には他にも課題がある。温度低下によって推進剤の配管が凍結する恐れがあり、地球に向けてアンテナを固定する小型スラスターは徐々に詰まりつつある。また、独自のマシン言語で書かれたコンピュータープログラムの問題解決には、退職したエンジニアを呼び戻すこともある。
それでも科学チームは2027年の50周年まで少なくとも1機、できれば2機の探査機を運用し続けることを目指している。スピルカー氏は「ボイジャーはパンくず、つまり将来のミッションへの手がかりを残してきた」と語り、次世代の宇宙科学者たちへの知識継承も進めている。
探査機の機器の電源を切ることについて、あるチームメンバーは「50年以上にわたって人生の一部だったものが突然沈黙するのは、親友を失うようなものだ」と心情を吐露した。
(Gizmode)
宇宙で発酵した味噌が独特の風味を持つことが判明
国際宇宙ステーション(ISS)で発酵された味噌が地球上で作られたものとは異なる、より香ばしいナッツのような風味を持つことが最新の研究で明らかになった。デンマーク工科大学のジョシュ・エバンスらの研究チームは、茹でた大豆、塩、麹を混ぜた味噌の素を作り、その一部をISSに送って発酵させるという画期的な実験を行った。
ISSでの発酵は2020年3月に開始され、30日間の発酵後に冷凍保存された。地球上のコペンハーゲンとマサチューセッツ州ケンブリッジでも同様に発酵させた味噌と比較した結果、宇宙味噌は明らかに異なる風味プロファイルを示した。
この違いは主にISSの環境条件によるものと考えられている。宇宙味噌の周囲の平均温度は約36℃で、地球上の20〜23℃より高かった。これにより発酵プロセスが加速され、ピラジンと呼ばれる香ばしさを生み出す化合物がより多く生成されたと研究者は推測している。
また微生物分析では、宇宙味噌にのみ存在するバクテリア種が確認され、宇宙放射線の影響により麹菌にもより多くの遺伝子変異が見られた。
研究者はこの結果を「宇宙テロワール」と表現し、微小重力、放射線、温度などの宇宙特有の環境要因が食品発酵に与える影響の証拠だとしている。この研究は宇宙で長期滞在する宇宙飛行士のための食料保存や風味向上の新たな可能性を示すものだ。