カタパルトスープレックスニュースレター
航空券予約情報が政府の監視ツールに、知らぬ間に売買される乗客データ/「ジュラシック・パーク」シリーズは本物と違う?古生物学者が検証/YouTubeがAI検索機能を導入、動画クリエイターの収益減少に懸念/アメリカの監視社会化と民主主義の後退、富裕層による社会統制強化/など
航空券予約情報が政府の監視ツールに、知らぬ間に売買される乗客データ
アメリカの主要航空会社が所有するデータブローカーAirlines Reporting Corporation(ARC)が、乗客の知らないうちに詳細な旅行記録を政府機関に大量販売していることが問題となっている。ARCはデルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空などの航空会社が所有する企業で、10億件以上の旅客記録を扱い、乗客の氏名、完全な旅程、金融詳細などの機密情報を名前やクレジットカードで検索可能な形で政府に提供している。このシステムにより、政府機関は令状なしに市民の移動履歴を追跡できる状況が生まれており、プライバシー権の侵害への懸念が高まっている。
ARCは航空会社と旅行代理店の仲介役として、Expediaなどを通じた航空券予約時に収集した個人情報を蓄積している。同社の取締役会にはデルタ航空、サウスウエスト航空、ユナイテッド航空、アメリカン航空、アラスカ航空、ジェットブルー航空、ルフトハンザドイツ航空、エールフランス航空、エア・カナダの代表者が名を連ねており、航空業界全体でプライバシーの商品化が組織的に行われている実態が浮き彫りになった。税関・国境取締局(CBP)との契約では、ARCがデータ提供元を秘匿するよう求める条項まで含まれており、乗客に知られることなく個人情報が売買されている構造が明らかになっている。
アメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)は5月1日、ARCから25万ドル(約4000万円)相当のデータを購入したことを公表した。ICEはこのデータを使って抗議活動参加者の身元確認にプレデタードローンや顔認識技術を活用しており、市民の政治活動を監視する道具として旅客データが悪用されている。ロン・ワイデン上院議員は「トランプ政権がアメリカ国民のプライバシー保護に乗り出すことは期待できない」と述べ、航空会社が「クレジットカードを持つ誰にでも」乗客情報を販売する貪欲な決定を批判した。乗客は航空券を購入する際、自分の個人情報が政府の監視ネットワークに組み込まれることを知らされておらず、知らぬ間にプライバシーが侵害されている深刻な状況が続いている。
「ジュラシック・パーク」シリーズは本物と違う?古生物学者が検証
ユタ大学自然史博物館の古生物学者マーク・ローウェンが、映画「ジュラシック・パーク」シリーズに登場する恐竜の描写について科学的検証を行った。ローウェンは特にティラノサウルスの表現について、映画で描かれた巨大な共鳴腔や鳴き声は現実的だと評価した。一方で、映画でティラノサウルスが動かないものを見えないとする設定については、実際のティラノサウルスは3次元の双眼視で約60度の重複視野を持ち、現在のタカよりも優れた視力を有していたと説明した。
映画で最も科学的に不正確とされたのはディロフォサウルスの描写だ。実際のディロフォサウルスは体長7.5から9メートルに達するが、映画では小型に描かれている。さらに首のひだや毒を吐く能力は完全な創作で、恐竜が毒を持っていた証拠は一切存在しないとローウェンは断言した。ヴェロキラプトルについても、映画のサイズは実際より大きく、本物は作業靴と棒があれば撃退できる程度の大きさだったという。
ステゴサウルスやスピノサウルスの描写についても多くの不正確な点が指摘された。ステゴサウルスの尻尾の棘は実際には2.5から3フィート程度で、映画のように9フィートもない。スピノサウルスについては、最近の研究で水中生活に適応した魚食恐竜だったことが判明しており、ティラノサウルスと陸上で戦うことは現実的ではないと説明した。ローウェンは映画制作者が恐竜をより大きく、より恐ろしく描く傾向があることを指摘している。なお、シリーズ最新作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が8月8日に日本公開を控えており、スカーレット・ヨハンソンがシリーズ初の女性主人公として出演する。
YouTubeがAI検索機能を導入、動画クリエイターの収益減少に懸念
YouTubeがGoogleのAI Overviewsと類似した新機能「AI搭載検索結果カルーセル」の導入を開始した。この機能はアメリカのYouTube Premiumメンバーを対象としたテストとして提供され、ショッピング、旅行、特定の場所での活動に関する検索で表示される。例えば「ハワイのベストビーチ」と検索すると、AIが生成した動画の要約と関連する動画のサムネイルがカルーセル形式で表示され、ユーザーは動画を開かずとも必要な情報を得られる仕組みだ。現在は英語動画のみを対象とし、iOSとAndroidアプリで7月30日まで実験が行われる。
この機能は動画クリエイターにとって懸念材料となる可能性がある。ユーザーがAI生成の要約から直接情報を得られるため、実際の動画を視聴する機会が減少し、クリエイターの広告収益や視聴者エンゲージメントに悪影響を与える恐れがある。これはGoogleの検索エンジンでAI Overviewsが導入された際に、ニュースサイトへのトラフィックが大幅に減少した問題と同様の構造だ。Wall Street Journalの報告によると、GoogleのAI機能がパブリッシャーのトラフィックに深刻な打撃を与えていることが明らかになっている。
YouTubeはまた、2023年後半に開始した会話型AI機能の対象をPremiumメンバー以外にも拡大している。この機能は動画に関する質問への回答、関連コンテンツの推奨、動画の要約を提供し、学術的な動画では重要概念についてクイズ形式でテストすることも可能だ。Googleは今後もYouTubeでより多くのAI機能を開発すると発表しており、プラットフォーム全体のAI統合が加速している。AI機能はゼロクリック体験を目指すGoogleの戦略の一環として位置づけられている。
(The Verge)(TechCrunch)(Ars Technica)
アメリカの監視社会化と民主主義の後退、富裕層による社会統制強化
作家コリー・ドクトロウが監視システムと不平等の関係について分析した論考で、独裁者が直面する「独裁者のジレンマ」という概念を紹介している。これは反体制メッセージの拡散を防ぐために公的コミュニケーションを検閲したい欲求と、権力エリートが反乱を計画していないかを知る必要性との間の矛盾を指す。現代中国はこの問題を巧妙に解決しており、習近平は2012年から2015年の反腐敗粛清で、ライバル勢力の腐敗官僚のみを標的にし、自身の権力基盤は温存した。中国の検閲システムは政府への不満表明は許可するが、抗議行動への動員は完全に封じることで、当局が不満の高まりを把握しつつ、公的な抵抗活動を防いでいる。
ドクトロウは監視を「警備員」の一種として位置づけ、学校や病院の建設、賃金上昇、価格引き下げといった根本的な社会改善よりも安価な社会安定化手段だと説明している。エドワード・スノーデンの暴露により、商業監視と政府監視の区別が存在しないことが判明し、政府は技術企業が収集したデータを活用して市民を監視している。アメリカでは1970年代以降、賃金停滞と格差拡大が続き、2014年の政治学研究では1779の政策闘争を分析した結果、エリートが支持する場合にのみ民意が反映されることが明らかになった。
監視技術の進歩により、より悪質な形の弾圧と腐敗が可能になっている。ICEは抗議活動参加者の身元確認にプレデタードローンや顔認識技術を使用し、最も勇敢で効果的な反対勢力指導者を特定して嫌がらせや逮捕の標的としている。アメリカ初の信用調査機関Retail Credit Companyは「人種混合主義者」、LGBTQ+の人々、労働組合活動家、左翼活動家を特定し、彼らが銀行融資、住居、雇用を拒否されるよう仕向けていた。同社は1975年にEquifaxと社名を変更し、現在も活動を続けている。しかし、監視によって強化された警備労働でも、国民の生活を向上させる政策の代替にはならず、アメリカの富裕層は民主的負債を蓄積し続けている。
Creative CommonsがオープンなAIエコシステムのためのフレームワーク「CC signals」発表
非営利団体Creative Commonsが、AI時代に向けた新しいプロジェクト「CC signals」を発表した。Creative Commonsは著作権を保持しながらクリエイターが作品を共有できるライセンス運動を牽引してきた組織で、今回のCC signalsは、データセット保有者が自分のコンテンツを機械学習、特にAIモデルの訓練にどのように利用されるかを詳細に指定できるフレームワークだ。これは、インターネットのオープンな性質とAIに必要なデータ需要のバランスを取ることを目的としている。現在、多くの企業がAI訓練に対するデータ利用を制限したり、ユーザーデータのAI関連利用について説明したりするためにポリシーやサービス利用規約を変更している。
現在のAIエコシステムは、長年デジタルコモンズを支配してきた社会契約と整合性が取れていない状況にある。この契約では「オープンに共有するが、尊重、認知、互恵性を期待する」という原則があったが、AIによるデータ抽出は前例のない規模で急速に進み、コンテンツクリエイターや管理者の関与なしに行われている。この結果、AI進歩に対する反発が生まれ、サイトの閲覧制限やペイウォール設置などの「囲い込み」が起きている。もしすべてのコンテンツが公開されなくなれば、知識へのアクセスは資金力のある者だけに限られ、公正で多様性に富んだ競争力のあるAIエコシステムの構築が阻害される可能性がある。
CC signalsは制限や規制ではなく、相互利益を重視したインセンティブ設計によってこの問題を解決しようとしている。信用、財政的持続可能性、非金銭的貢献という互恵性の異なる次元を反映した要素で構成され、AI訓練やテキスト・データマイニングなどの機械利用を制限するのではなく、見返りとなる行動を奨励することを目的としている。Creative CommonsのCEOアンナ・トゥマドッティルは「CCライセンスがオープンウェブの構築を支援したように、CC signalsが互恵性に基づくオープンなAIエコシステムの形成を支援する」と述べた。プロジェクトは初期段階で、2025年11月のアルファ版リリースに向けて公開フィードバックを求めており、タウンホールミーティングも開催予定だ。
(Creative Commons)(TechCrunch)
Accenture、生成AI時代の逆風で時価総額600億ドル減少
コンサルティング大手Accentureが生成AI時代において厳しい試練に直面している。同社は2015年から2024年末まで約370%の総リターンを記録し、Goldman SachsやMorgan Stanleyを上回る成績で、2月には時価総額2500億ドル(約40兆円)に達していた。しかし、その後600億ドル(約9.6兆円)の市場価値を失い、6月20日の四半期決算発表後には株価が7%急落した。売上高177億ドル(約2兆8400億円)、営業利益30億ドル(約4800億円)と予想を上回る成長を見せたものの、新規受注は2四半期連続で減少し、1億ドル以上の大型契約を結んだ顧客数も32社から30社に減少した。
2019年からCEOを務めるジュリー・スウィートは、クライアントが生成AIに関して従来の技術革新と同等かそれ以上の支援を必要とし、Accentureがそれを提供する最適な立場にあると主張している。しかし、MicrosoftやSAP、Palantirといった技術パートナー企業は、AIを製品に直接統合し、コンサルタントを介さずに顧客との関係を構築する動きを見せている。実際、Accentureの生成AI関連新規契約は四半期あたり2億ドル(約320億円)から1億ドル(約160億円)に減速しており、AI時代は技術の仲介者ではなく開発者のものになる可能性が高い。
スウィートはこの状況に対応するため、全事業を統合した「再発明サービス」部門を新設し、アメリカ事業の責任者マニッシュ・シャルマを責任者に任命した。しかし、これは従来のAccentureとほぼ変わらない構造であり、根本的な解決策には見えない。同社は過去に多数の小規模コンサルティング会社や広告代理店を買収してきたが、MetaやGoogleが推進する生成AI技術によってこれらの事業も陳腐化する可能性がある。AIによる業界破壊を避けるためには、より抜本的な戦略転換が必要かもしれない。
4%の人が持つ「心の目が見えない」症状とは
AsapSCIENCEは、カナダ人YouTuberのミッチェル・モフィットとグレゴリー・ブラウンが運営する人気教育チャンネルで、1000万人以上の登録者を持つYouTube最大級の教育チャンネルの一つだ。二人はゲルフ大学で生物学を学んでいた際に出会ったゲイカップルで、2014年に公にカミングアウトし、科学に興味を持つ若いゲイの人々のロールモデルとなることを目指している。彼らはホワイトボードに描いた色とりどりの絵とナレーションを使って科学的概念を分かりやすく説明し、科学の歌やパロディーも制作している。
この動画では、脳の視覚処理と知覚の仕組みについて複数の興味深い実験と解説が紹介されている。まず、左右反転した顔の画像を使って、多くの人が左側の顔をより怒って見えると判断することを説明した。これは脳の右半球が顔認識と感情認識を担当し、左側の視野をより効率的に処理するためだ。また、サッカーのゴールシーンを使った実験では、左から右に読む文化圏の人は左から右への動きを速く感じ、右から左に読む文化圏の人は逆に感じることが示された。
動画ではアファンタジア(心的イメージ形成障害)についても詳しく解説されている。約4%の人がこの症状を持ち、頭の中でりんごなどの物体を視覚的にイメージすることができない。脳スキャンでは、アファンタジアの人が何かを視覚化しようとしても視覚野が活性化しないが、夢を見ている時は正常に活性化することが分かっている。また、読書中に一般的な人は発汗反応を示すが、アファンタジアの人は示さないことも明らかになっている。この症状はSTEM分野で働く人に多く見られ、PTSD などの精神的障害に対する保護的効果がある可能性も示唆されている。