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偽情報への対応で分かる企業の本当の強さ/映画『ブルータリスト』は5つの異なるフォーマットでどう撮影されたのか/アメリカはEVに優しくなくなる?国の大きなルール変更/クリーンエネルギー投資は勢い止まらず/映画の本当の作者は誰か/など
偽情報への対応で分かる企業の本当の強さ
現代社会では、災害やサイバー攻撃のような危機に加えて、「偽情報(ミスインフォメーション)」という新たな脅威が深刻な問題となっている。この偽情報は、面白おかしく伝えられるため、正確で複雑な事実よりもずっと速く広まってしまう。その結果、過去の災害時にも見られたように、人々の間にパニックを引き起こし、救助活動のような公的な対応を妨げるなど、社会に大きな混乱をもたらすのだ。
このような嘘偽情報は、企業にとっても他人事ではない。会社の評判を傷つけ、株価を下げ、顧客の信頼を失う原因となるからだ。そこで、この記事の筆者であるジャスティン・アンヘル・ナイテンとマイケル・S・ジョージは、企業が今すぐ対策を始めるべきだと主張する。具体的には、危機が起きたときに誰がどう情報を発信するかというルールを決め、偽情報が広まることを想定した訓練を繰り返し行うことが重要だ。さらに、普段から行政機関と連携したり、様々な手段で正確な情報を伝えられるように準備したりすることも欠かせない。
今後、AIの進化などによって、偽情報を流す手口はさらに巧妙になっていく。このような状況で対策を怠ることは、企業にとって非常に大きなリスクだ。これからの時代に本当に強い企業とは、ただ有名なだけでなく、危機が起きたときにその発言が「信じられる」存在である。企業がはっきりと正しい情報を発信することは、自社を守るだけでなく、社会全体が混乱を乗り越えるための助けにもなるのである。
映画『ブルータリスト』は5つの異なるフォーマットでどう撮影されたのか
たいていの映画は、映像に統一感を出すために一つの撮影機材で撮るのが基本である。しかし、ブラディ・コーベットが監督した映画『ブルータリスト』は、主にフィルムを使いながら、たくさんの異なる機材を組み合わせて撮影するという特別な方法を選んだ。この映画では、画質の良いビスタ・ビジョンという古い方式から、昔のテレビで使われたベータカムというビデオテープまで、実に様々な種類のフィルムや機材が使われている。
このように機材を使い分けたのは、それぞれの場面が持つ雰囲気を的確に表現するためである。例えば、物語の中心となる1950年代の雄大な景色や美しい建物を撮る際には、歪みが少なく高画質なビスタ・ビジョンが活躍した。一方で、登場人物が酔って混乱しているシーンでは、わざと映像が乱れるように改造したカメラを使い、手持ちカメラで不安定な動きを出すことで、観客がその場の感覚を共有できるように工夫されている。
さらに、物語の時代設定に合わせて撮影方法を変えるという試みもなされている。物語が1980年代に進むと、当時のテレビ番組のような少し粗い画質のベータカムで撮影し、時代が移り変わったことをはっきりと示した。このような多様な機材の選択は、表現へのこだわりだけではなく、予算という現実的な理由も関係している。より大きなフィルムも検討されたが、コストが高すぎたため、画質と費用のバランスが取れたビスタ・ビジョンが最適な選択肢となったのだ。
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アメリカはEVに優しくなくなる?国の大きなルール変更
アメリカの共和党は、議会と政府が一体となって、環境にやさしい自動車を普及させるための規制を弱める動きを加速させている。これは、車の排気ガスを減らしたり、電気自動車(EV)の利用を広げたりするこれまでの流れに逆らうものだ。特に議会で審議されている新しい予算案では、環境保護に関する多くのルールが根本から見直されようとしている。
この法案がもし成立すれば、自動車の排気ガスに含まれる二酸化炭素などの有害物質に対する国の厳しい基準がなくなってしまう。その結果、より多くの排気ガスを出す車が作られる可能性がある。さらに、この法案にはEVなどのクリーンな車を買う人への最大7,500ドル(約117万円)の補助金を廃止することも盛り込まれている。TeslaのCEOであるイーロン・マスクは、この補助金廃止がライバル企業にとってより大きな打撃になると考えて賛成しているが、その一方で石油やガス会社への補助金がなくならないことには不満を示している。
加えて、自動車メーカーが国の定めた燃費基準を守れなくても罰金を科さないようにする別の法案も提案されている。これが実現すれば、メーカーは排気ガスをきれいにする装置を減らしてコストを下げることができるようになるかもしれない。しかし、この変更はTeslaにとって大きな打撃となる。なぜなら、Teslaは環境基準を達成できない他の自動車メーカーに排出枠を売ることで大きな利益を得ており、その重要な収入源が失われるからだ。
クリーンエネルギー投資は勢い止まらず
今年、世界のクリーンエネルギー投資は、石油や石炭といった昔ながらのエネルギーへの投資を大きく上回る。国際エネルギー機関(IEA)の報告が示す通り、クリーンエネルギーには約2.15兆ドル(約337兆円)もの資金が投じられる一方、化石燃料への投資は約1.15兆ドル(約180兆円)に過ぎない。この事実は、クリーンなエネルギーへの切り替えが着実に進み、その勢いが今後も続く力強い流れであることを証明している。
この活発な投資は、2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするという世界共通の目標達成を可能にする。目標達成には毎年平均4.5兆ドル(約706兆円)という莫大な投資が必要で、今年の額はその半分ほどだ。しかし、クリーンエネルギーへの投資はこれまでの予想を上回るペースで力強く伸びており、この大きな目標は十分に達成できる。
今後の鍵は、AIの普及などで急増するデータセンターの電力をどう確保するかという点である。この新しい需要に対する答えは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーだ。なぜなら、これらの技術は年々コストが安くなっているうえに、場所や規模に合わせて柔軟に設置できるという大きな強みを持つからだ。したがって、長期的には再生可能エネルギーが選ばれ、さらに投資は集中する。
映画の本当の作者は誰か
映画作りは多くの人が関わる共同作業だが、その評価は良くも悪くも監督一人に集まる傾向がある。この背景には、監督こそが映画の「作家」であるとする「作家主義」という考え方がある。この見方は、もともとフランスの映画監督であるフランソワ・トリュフォーが提唱したもので、彼は、監督が単に脚本を映像にするだけでなく、小説家のように独自のスタイルや世界観で物語を語るべきだと主張した。
その後、批評家のアンドリュー・サリスが「作家」の条件として、優れた技術力、作品全体に一貫して現れる個性、そして監督の個性が生み出す作品の深い意味、という3つの点を挙げた。しかし、これらの条件に対しては、「映画は監督だけでなく多くのスタッフとの共同作業ではないか」という根本的な批判がある。また、毎回同じような作風を繰り返すことが本当に優れているのか、という疑問や、監督だけを特別視することへの反発も根強く存在する。
さらに重要なのは、作品が完成した瞬間、その解釈は作り手の手を離れて観る人一人ひとりに委ねられる、という点である。たとえ監督の意図と違っていても、観客が作品から自分なりの意味を見出すことは自由であり、それこそが作品を豊かにする。結論として、作家主義は映画を理解するための一つの切り口にすぎない。映画は多くの人々の協力と、観客の多様な解釈があって初めて完成すると理解することが大切である。
2025年冬のトレンドは「デジタルデトックス」と「自然回帰」
2025年の冬、Pinterestではデジタル機器から離れて自然とつながる「デジタルデトックス」が大きなトレンドである。特にZ世代を中心に、人々は画面から離れて心穏やかに過ごすことを求めている。そのため、旅行や家のインテリアといった生活のあらゆる場面で、自然を感じられるスタイルが注目されているのだ。
この流れを反映し、家の飾り付けでは木のぬくもりや自然な色合いを活かした素朴なスタイルが人気だ。人々は中古の家具を探したり、田舎の農家のような雰囲気を取り入れたりして、安らげる空間を作っている。また、旅行では森や山へ出かけてリラックスしたり、静かな場所で読書に集中したりする過ごし方が好まれている。
一方で、自分らしさを表現する方法にも新しい動きがある。Z世代の間では、自分の星座のイメージに合わせて色を選ぶ「占星術メイク」が大きな関心を集めている。これは、自然とのつながりを大切にしながらも、自分だけの個性を楽しみたいという気持ちの表れだと言える。
AIが市場調査を根本から変える
これまでの市場調査は、顧客を知るために多くの時間とお金を必要とした。しかし、手間がかかる上に情報が古かったり偏っていたりすることが多く、企業の素早い意思決定に役立てにくいという課題があった。そのため、多額の費用をかけても、本当に知りたいことをタイムリーに把握するのは困難だった。
AIの登場が、この状況を大きく変え始めた。新しい技術を活用する企業は、AIに自動でインタビューをさせ、その結果を瞬時に分析できるようになった。これにより市場調査は格段に速く安価になり、これまで調査が難しかった小さなアイデアでも、データに基づいた判断がしやすくなった。
さらにAIは、現実の人間を集めることなく市場を予測する、新しい段階へと進んでいる。これは、AIによって仮想の消費者集団を作り出し、その社会をコンピューター上でシミュレーションする技術だ。この方法が確立されれば、企業はいつでも顧客の行動を予測でき、市場調査は一度きりの分析から、ビジネスと共にある継続的な活動へと根本的に変わる。
(a16z)