カタパルトスープレックスニュースレター
宇宙での燃料補給競争で中国がリードし米軍警戒強める/ステーブルコインが2400兆円市場でフィンテック革命/AIによる画像生成の誤陰性と誤陽性の問題で被害拡大/AI生成児童虐待画像が急増で法執行機関圧迫/など
宇宙での燃料補給競争で中国がリードし米軍警戒強める
中国が軌道上での衛星燃料補給技術で米国を上回る成果を示している。中国の実践21号(SJ-21)と実践25号(SJ-25)衛星が地球上空約3万5,800キロの静止軌道で7月2日にドッキングし、それ以来結合状態を維持していることが確認された。上海宇宙飛行技術研究院によると、1月に打ち上げられたSJ-25は「衛星燃料補給と寿命延長サービス技術の検証」を目的としており、2021年に打ち上げられたSJ-21は以前に運用を終了した中国の北斗ナビゲーション衛星とドッキングして高高度軌道に移動させた実績がある。
この技術は軍民両用の性格を持ち、民間では衛星の運用寿命延長、軍事では他国衛星への接近・無力化能力として活用できる。米宇宙軍も軍事衛星の寿命延長を目的とした軌道上燃料補給に関心を示しており、来年にはAstroscale USと協力して初の米軍事資産への軌道上燃料補給を実施予定だが、中国が先行する形となった。米宇宙軍の監視衛星GSSAP2機がSJ-21とSJ-25の近くに配置され、状況を監視している。元宇宙軍中将ジョン・ショーは「動的宇宙作戦」の重要性を強調し、中国が燃料補給能力を獲得すれば機動性が大幅に向上し、米軍の監視がより困難になると警告している。
静止軌道は軍事・商用衛星にとって重要な領域で、地球の自転と同期して同一地域を24時間監視できるため戦略通信や早期警戒システムに利用されている。Northrop Grummanは2019年と2020年にミッション延長機を打ち上げて商用通信衛星とのドッキングに成功したが、流体移送機能は持たない。中国のSJ-21とSJ-25は燃料であるヒドラジンと四酸化二窒素の移送を実施していると推定される。地上の望遠鏡では1キロメートル程度まで接近すると個別識別が困難になるため、レーダーや電波周波数データを組み合わせた分析が行われているが、ドッキングの成功は両衛星が分離した後のSJ-21の機動能力で判断される見込みだ。
ステーブルコインが2400兆円市場でフィンテック革命
暗号資産業界でステーブルコインが本格的な普及期を迎えている。Andreessen Horowitzの投資家アリ・ヤヒヤとアリアナ・シンプソンによると、ステーブルコインの年間取引量は16兆ドル(約2,400兆円)に達し、1ペニー未満のコストで1秒以内に任意の金額を世界中に送金できる技術インフラが整った。Stripe、Revolut、Robin Hoodなどの大手フィンテック企業が従来の金融システムの後方処理をステーブルコインに置き換え始めており、SpaceXも国際間の資金移動にステーブルコインを活用している。従来の国際送金では3-7日間で手数料が取引額の最大10%に達していたが、この技術革新により金融システムの根本的変革が進んでいる。
AI技術との融合も注目されている。AIエージェントには銀行口座やクレジットカードを与えられないため、代理取引にはクリプトウォレットが必要となる。Worldcoinは生体認証技術を使って人間であることを証明するシステムを開発し、AIが生成する偽コンテンツの氾濫に対抗している。また分散型コンピューティングネットワークRenderでは、遊休GPU容量を活用してAI学習や推論処理を実行する仕組みを構築している。現在のインターネットビジネスモデルでは、検索エンジンが広告を介してコンテンツ制作者に収益をもたらしているが、AIが直接回答を提供するようになれば新しい収益分配システムが必要になる。
規制環境の改善により、これまで躊躇していた企業の参入が加速している。前政権下では厳格な規制により多くのプロジェクトが頓挫していたが、現政権の友好的姿勢でトークンネットワークの構築が活発化している。FacebookのLibra(後のDiem)プロジェクトも規制圧力で頓挫したが、そこから生まれた人材が新たなプロジェクトを立ち上げている。一方でビットコインはデジタルゴールドとして確立し、Ethereumは分散化重視、Solanaは性能重視と、各プラットフォームが特化した役割を担う棲み分けが進んでいる。
AIによる画像生成の誤陰性と誤陽性の問題で被害拡大
テック大手各社がAI生成コンテンツの適切な表示に苦戦している。Meta、YouTube、TikTokなどのプラットフォームは、偽の画像や動画が氾濫する中でユーザーの信頼を守ろうと自動検出ツールや自主的ポリシーを導入したが、2つの深刻な問題に直面している。本物のコンテンツを誤ってAI生成と判定する一方で、実際のAI作品を見逃してラベル表示されずに流通させてしまう事態が頻発している。
誤判定の被害者として、TikTokスターのニコライ・サビックは480万人のフォロワーを持つが、手作業で数日かけて制作した動画の多くが「AI生成」とラベル付けされ評判が悪化したと述べている。また広告代理店We Are Socialでは、字幕追加にAIツールを使っただけでコンテンツ全体がAI扱いされるケースが発生している。一方で見逃し事例も深刻だ。予測市場企業KalshiはGoogle Veo 3で制作費2,000ドル(約30万円)の広告を制作し、NBA Finals中にYouTube TVで1,900万回視聴されたが、AI表示は一切なかった。
各社は対策を講じているものの効果は限定的だ。TikTokは2023年に自動検出システムを導入し、Metaは他社AIツール使用と自社ツール使用を区別するタグを開発した。業界団体Coalition for Content Provenance and Authenticityは標準化認証システムを提供しているが、ドレクセル大学のマシュー・スタム教授は「普遍的な採用が実現しなければ効果的でない」と指摘している。OpenAIも自社のメタデータについて「完璧な解決策ではない」と認めており、技術的な限界が浮き彫りになっている。
AI生成児童虐待画像が急増で法執行機関圧迫
AI生成の児童性的虐待画像がインターネット上で急激に増加している。英国の非営利団体Internet Watch Foundationは今年上半期だけで1,286件のAI生成動画を確認したと発表した。これは2024年上半期のわずか2件から大幅に増加している。米国のNational Center for Missing & Exploited Childrenも今年上半期に485,000件の報告を受けており、2024年全体の67,000件を大きく上回る数字となっている。
技術の向上により、AI生成画像は人間の目では本物と区別がつかないレベルに達している。以前は指の数が多すぎる、背景がぼやけている、動画のコマ送りがぎこちないといった特徴で判別できたが、最新の技術ではこうした欠陥が解消されている。犯罪者グループはダークウェブで協力し合い、より精巧な画像や動画を制作している。この中には実在の児童の写真を学校のウェブサイトやソーシャルメディアから収集して悪用したケースも含まれている。
現在約35の技術企業がAI生成児童虐待画像の報告を行っている。Amazonは今年上半期に380,000件、OpenAIは75,000件、Stability AIは30件未満を報告した。法執行機関はこれらの偽画像の調査に多大な時間を費やしており、実際の児童虐待事件の捜査に支障をきたしている。ウィスコンシン州では完全にAIで生成された画像に関する法的解釈をめぐって裁判が行われており、法的枠組みの整備が急務となっている。
人手不足で各国が移民誘致競争に方針大転換
New York Times紙のコラムニスト、リディア・ポール・グリーンとカルロス・ルサダが世界的な移民動向について対談し、従来の移民観を覆す現実を明かした。グリーンは世界各地で移民に関する調査を行い、貧困国の人々が常に豊かな国への移住を望むという前提が誤りだと指摘している。実際には世界人口の96%が出生国に留まっており、むしろ人手不足に直面する国々が移民を誘致する競争に転じている。中東のドバイでは、かつて欧米を目指していたアフリカ系中間層の専門職が、市民権は得られないものの専門性を活かせる環境を求めて移住している。
特に注目すべきは「帰属ではなく参加」という新しい概念だ。ウガンダ出身の弁護士がドバイで「根を下ろすのではなく移動し続ける時代かもしれない」と述べたように、永続的な帰属意識よりも一時的で実利的な参加を選ぶ移民が増えている。これは従来のアメリカが提供してきた「市民権獲得による帰属」モデルとは根本的に異なる。欧州でも反移民政策を掲げるジョージア・メローニ伊首相が50万人の就労ビザ発給を発表するなど、必要に迫られた実利的移民政策への転換が見られる。
シリア内戦が欧州の移民政策転換点となったが、今度はシリア人の帰国移住が始まっている。対談者らは2025年に米国が50年ぶりに純移民数がマイナスになる可能性を指摘し、移民なしの生活を経験した国民が現実に直面した時の反応に注目している。移民は各国から「送られる」のではなく自ら選択する主体的存在であり、各国は移民を引きつける魅力を競う時代に入ったと結論づけている。
Google新技術「クエリファンアウト」が出版社の検索流入に打撃
GoogleがAI Mode検索で採用する「クエリファンアウト技術」が検索業界に大きな変革をもたらしている。この技術はユーザーの単一検索クエリを意味的に関連する多数のサブクエリに展開し、Gemini 2.0 AIモデルを使ってYouTubeやGoogle Mapsなど複数のプラットフォームから情報を収集する。従来の検索では「クレジットスコアとは」「クレジットスコアの構成要素」「良いクレジットスコアの基準」など複数回の検索が必要だったが、新技術では一度の質問で包括的な回答を提供する。GoogleのCEOスンダー・ピチャイはAI Modeが現在は別タブで運用されているが、成功した機能はAI Overviewsやメイン検索結果に統合されると述べている。
この変化は出版社にとって深刻な脅威となっている。従来の検索体験では各クエリが複数の機会を生み出し、出版社はランキング上位を獲得して読者を増やし、広告収益や購読者転換を図ることができた。しかしクエリファンアウト技術では読者の検索行程が単一の包括的回答に圧縮され、複数のコンテンツや複数の出版社を必要としなくなる。検索専門家バリー・アダムスは「AI Modeがデフォルト体験になれば、検索結果からのクリック数の崩壊を予想すべき」と警告している。これはページレベルのインデックスから段落レベルの検索への根本的な転換を意味する。
出版社が生き残るための戦略として、より幅広いキーワード調査、読者インタビューの実施、意味的な小見出しの活用、重要情報の前面配置、強力なオフサイトプロフィールの構築が推奨されている。AlsoAskedのようなツールを使って関連する長尺クエリの可視化を行い、40-60文字のブロックで質問の一部に答える形式でコンテンツを構成することが効果的だ。Googleがプラットフォームにユーザーを留める努力を加速する中、ニュースレター、ポッドキャスト、ライブイベントなどアルゴリズムの影響を受けにくい製品を通じた読者との直接関係構築がこれまで以上に重要になっている。
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