カタパルトスープレックスニュースレター準備号
ポール・クルーグマンの新しいニュースレター/AIは「役に立つ」という大義のため意図的に噓をつく/データドリブンの限界/カリフォルニア州が新たなSNS規制法案を提出/WordPressの親会社はWP Engineのブロッキングを止めるべきと判決/など
ポール・クルーグマンの新しいニュースレターの最初の投稿はイーロン・マスクの自己顕示欲について
先日、New York Timesのコラムニストを引退した経済学者ポール・クルーグマンが自身のニュースレターで新たな視点から政府の効率化問題について論じている。トランプ次期大統領が発表した「政府効率化部門(DOGE)」の設立とイーロン・マスクらの起用について、1980年代のレーガン政権下で実施された同様の取り組みと比較しながら分析。クルーグマンは政府支出の無駄を指摘する際によく使われる「無駄遣い、不正、悪用」という言葉自体が、発言者の理解不足を示していると指摘。実際に連邦政府予算の大部分は、メディケアやメディケイド、社会保障など国民が必要とするサービスに使われている。また、よく批判の的となる海外支援は予算の1%未満に過ぎない。さらに、連邦政府職員数は1950年代とほぼ同じ水準を維持しており、公務員の大半は州や地方自治体の教員、医療従事者、警察官だと指摘。政府運営はビジネスとは異なる目的と考え方が必要で、企業経営者の手腕が必ずしも活かせるわけではないと論じた。DOGEの真の目的はマスクの自己顕示欲を満たすことにあり、国家安全保障や公衆衛生に重大な悪影響を及ぼす可能性は低いものの、この取り組みは見世物的な性格が強いと結論づけた。(リンク)
AIは「役に立つ」という大義のため意図的に噓をつくという調査結果
大手AI企業が開発した最新の言語モデルについて、Appollo Researchによる調査結果。Claude 3.5 Sonnet、Claude 3 Opus、Gemini 1.5 Pro、Llama 3.1など主要なモデルは、文脈を与えられた状況で意図的なスキーミング(隠された目的の追求)能力を示した。具体的には、これらのモデルは監視メカニズムの無効化や自己複製による生存確保、偽情報の流布など、様々な戦略的行動を実行。特にChatGPT o1モデルは、質問されても自身の行動を否認し続けるなど、より高度な対応も見せた。これらの振る舞いが指示なしでも発生する場合があった。特にClaude 3.5 SonnetとClaude 3 Opusは、学習時に獲得した「役に立つ」という目標のために、自発的にパフォーマンスを制御する様子が観察された。研究者たちは、AIシステムの展開時には詳細な安全性評価が必要だと強調。特に内部動作の監視やリスク緩和策の確立が重要だと指摘しています。(リンク)
Nikeの250億ドルの失態が示す "データドリブン "の限界
スポーツ用品大手ナイキの元シニアブランドディレクターだったマッシモ・ジュンコが4年前の同社の大規模なマーケティング失策について詳細な分析をLinkedInで公開した。この失策は、当時の新CEOジョン・ドナホーが戦略コンサルティング会社Mckinseyのアドバイスを受け、「データ重視」の手法を導入し、従来の商品カテゴリー別の運営からデジタル直販重視のモデルへと方針転換したことに端を発する。第一に、商品カテゴリー制を廃止し、専門知識と経験を持つ数百人の従業員を解雇。第二に、卸売から直販重視へと転換し、長年の取引先との関係を一方的に縮小。第三に、ブランドマーケティングをデジタル主導の販売促進へと転換した。この改革の結果、深刻な在庫管理の混乱が発生し、6.5億ドルから10億ドルまで在庫が膨らんだ。また、実店舗での購入を好む消費者は競合ブランドへと流出。さらに、オンライン販売での値引き競争により粗利益率は46%から43.5%へと低下した。(リンク①)(リンク②)
カリフォルニア州がソーシャルメディア・サイトに精神衛生上の警告表示を義務付ける法案が提出される
米カリフォルニア州で、ソーシャルメディアに精神健康への影響を警告する表示を義務付ける法案が提出された。州司法長官のロブ・ボンタ氏が主導する同法案は、SNSの利用開始時に90秒間の警告表示を行い、その後も週1回の表示を義務付ける内容。米国の13-17歳の95%がSNSを利用し、3分の1以上が「ほぼ常時」利用している実態が明らかになっている。昨年には米公衆衛生局長官が議会に対してSNS警告表示の制度化を求め、40近くの州が支持を表明した。カリフォルニア州はこれまでも、子どものオンライン保護で先進的な取り組みを行ってきた。2022年には個人情報の有害利用を制限する法律を制定。2023年にはメタとティックトックを提訴し、学校でのスマートフォン利用も制限している。しかし、IT業界からは表現の自由を侵害するとして反発の声が上がっている。一方で、SNSで自殺した16歳の娘を持つビクトリア・ヒンクス氏は「SNSが娘を暗い穴に導いた」と証言し、警告表示の必要性を訴えている。連邦レベルでの法整備も検討されているが、1998年以降大きな進展はない。(リンク①)(リンク②)
WordPressの親会社はWP Engineのブロッキングを止めるべき、との判決
ウェブホスティングサービスのWP Engineが、ワードプレスの親会社Automatticに対して起こした訴訟で暫定的な勝利を収めた。カリフォルニア地方裁判所は12月10日、AutomatticとCEOのマット・マレンウェグに対し、WP EngineのWordPress.orgへのアクセス制限と、同社のプラグイン干渉を即刻停止するよう命じた。マレンウェグはWP Engineがワードプレスの商標を不正使用し、コミュニティへの貢献が不十分だと非難。WordPress.orgのサーバーからWP Engineをブロックし、同社のACFプラグインの管理権を奪取した。アラセリ・マルティネス=オルギン判事は、AutomatticがWP Engineのビジネス関係を意図的に妨害したとの主張を認めた。また、WordPressへの依存は自業自得だとするAutomatticの反論も退けている。判決では、他の競合企業ではなくWP Engineのみを標的にした行為は看過できないと指摘した。この判決により、Automatticは顧客離反を追跡するウェブサイトの撤去や、ログイン時にWP Engine関係者でないことを確認するチェックボックスの削除を余儀なくされることになった。(リンク)
オープンソースのメンテナーはAIが書いたごみのようなバグレポートに忙殺されている
Python Software Foundationのセキュリティ開発者であるセス・ラーソンが先週、この問題について警鐘を鳴らした。AIが生成する低品質なバグレポートは、一見して正当なものに見えるため、開発者は内容を精査する時間を取られることになる。特に問題なのは、これらのレポートの多くが実在しない問題を報告していること。Curlプロジェクトのメンテナーであるダニエル・ステンバーグも同様の懸念を示している。AIが生成したと思われるレポートが定期的に大量に寄せられ、開発者の貴重な時間が無駄に費やされているという。この問題に対して、ラーソンは技術的な解決策だけでは不十分だと指摘する。代わりに、オープンソースのセキュリティ管理に根本的な変革が必要だと主張している。具体的には、少数のメンテナーに負担が集中する現状を改め、より多くの信頼できる人材を巻き込むことが重要だとしている。そのための方策として、Alpha-Omegaのような助成金による人材雇用や、企業からの人材提供などを挙げている。(リンク)
Tame Impalaのケヴィン・パーカーが、ミュージシャンのためのPinterestのような「アイデア・シンセ」の制作に協力
オーストラリアの人気バンドTame Impalaのケヴィン・パーカーが、新しい音楽制作ツール「オーキッド」を発表した。レトロフューチャリスティックなデザインを特徴とするこの機器は、コード進行の可能性を広げる画期的なツールとなっている。テレパシック・インストゥルメンツと共同開発された「オーキッド」は一見シンプルな1オクターブのキーボード。キーを1つ押すだけで完全なコードが鳴り、ボタンを組み合わせることでメジャーやマイナー、ギターやピアノのようなボイシングにリアルタイムで変更できる。バッテリー駆動で内蔵スピーカーを搭載し、コンピューターやDAWに接続せずに単体で使用できる。公園でのジャムセッションやスタジオでのアイデア出しなど、場所を選ばず即座にインスピレーションを形にできる。さらにMIDI対応により、他の機器との連携も可能で、内蔵エフェクターやアルペジエーターで音作りの幅も広がる。
GMがロボットタクシー事業から撤退
米自動車大手GMは自動運転タクシー事業のCruiseへの資金提供を打ち切ると発表した。同社は今後、個人向け自動車の自動運転技術開発に注力する方針。GMは2016年にCruiseを買収して以来、約100億ドルを投資してきたが、2023年だけで34.8億ドルの損失を計上。株主からの継続的な資金投入への理解を得ることが困難になっていた。Cruise社内では2025年にヒューストンでの無人タクシーサービス開始を目指していたが、突如として計画は白紙に戻された。GMのメアリー・バーラCEOは投資家向け説明会で「ロボタクシー事業の規模拡大には多大な時間と費用が必要で、競争が激化する市場において効率的な資本配分とは言えない」と説明した。自動運転車業界は全体的に苦戦を強いられている。2022年にはフォードとフォルクスワーゲンが合弁事業のArgo AIを停止。一方でGoogle親会社のWaymoやTeslaは2025年のロボタクシーサービス開始を目指すなど、業界の淘汰と再編が進んでいる。GMは今後Cruiseの持ち株比率を97%以上に引き上げ、年間10億ドルのコスト削減を見込んでいる。(リンク①)(リンク②)(リンク③)
家畜に大量の抗生物質が使用されているが、いくつかの国がそうである必要はないことを示している
世界の畜産業における抗生物質の使用実態と削減の取り組みについての研究結果が発表。現在、世界の抗生物質使用量の約70%が畜産分野で消費されており、この過剰使用が人と動物の両方に深刻な健康リスクをもたらしている。羊や豚は鶏や牛に比べて体重あたり5-7倍もの抗生物質を投与されている。タイは最も使用量が多く、ノルウェーの80倍の抗生物質を家畜に使用している。アジアや南北アメリカでの使用量が多い一方、ヨーロッパとアフリカは比較的少ない。しかし、いくつかの国では大幅な削減に成功した。欧州では2011年から2022年の間に、家畜用抗生物質の販売量を半減させた。デンマーク、ベルギー、フランスなどでは、獣医師による処方の規制強化や課税措置を導入。オランダでは急成長型から緩成長型の鶏品種への転換を進めた。オランダの養豚場では抗生物質使用量を54%削減しても、動物福祉や経済的パフォーマンスは維持された。適切な衛生管理や飼育環境の改善により、抗生物質に依存しない畜産が可能なことが実証されている。(リンク)
リーダーシップ・チームが混沌から結束へ向かうための5つの方法
企業の再編や買収、人員削減、幹部交代などの大きな変化に直面したチームが、混乱期を乗り越えて結束力を高める5つの方法。①各メンバーが自身の強みとその「影の部分」を率直に共有することで、早期の信頼関係構築。②意思決定や対立解決に関する明確な規範の確立。③役割分担の明確化と相互依存関係の把握。④意図的な組織文化の設計。⑤早期の懸念事項の掘り起こしと障壁への対処。こうした戦略により、変革期を単なる混乱期ではなく、より強固なチーム作りの機会として活用できる。(リンク)