カタパルトスープレックスニュースレター
FBIが秘密裏に闇取引ネットワークを運営/Stripe、顧客を経営陣会議に招く新戦略/米FDA、職員流出を懸念しリモートワークを復活/米国トランプの大規模関税政策に対するノア・スミスの見解/トランプ政権の仮想通貨規制緩和政策
FBIが秘密裏に闇取引ネットワークを運営
FBIが大規模なマネーロンダリング組織を約1年間運営していた事実が明らかになった。この組織はダークウェブ上で「Elon Musk WHM」という名で活動していた人物が率いていたもので、FBIはこの人物を逮捕した後、その身元を利用して犯罪ネットワークを潜入捜査した。捜査官らは犯罪者から送られたビットコインと引き換えに現金を郵送するという方法でマネーロンダリングを継続。しばしば児童書の中に現金を隠して配送していた。
この作戦により、FBIはマイアミの麻薬密売組織やサンフランシスコでの強盗事件、さらには複数のハッキング事件の捜査に繋げることができた。捜査記録によれば、このネットワークを通じて約9000万ドル(約130億円)もの資金が流れていたとされる。
これはFBIによる一連の大規模潜入作戦の最新の例だ。過去にも暗号化携帯電話会社の乗っ取りや、仮想通貨の秘密裏の立ち上げなど、犯罪インフラを逆手に取った捜査が行われてきた。
一方で、FBIの手法には倫理的な懸念も指摘されている。本来であれば犯罪者に資金を送ることを促進する立場にあったという点で、犯罪行為を一時的に容認していたとも言える。また捜査過程では、YouTubeリンクを視聴した全ユーザーの個人情報を要求するなど、憲法に抵触する可能性のある手法も使用された。
現在も関連捜査が継続中であり、FBIや検察は詳細についての言及を控えている状況だ。
Stripe、顧客を経営陣会議に招く新戦略
StripeのCEOパトリック・コリソンは4月8日、同社の経営陣会議に2週間に1度顧客を招き、率直なフィードバックを得る取り組みを行っていると発表した。この会議には約40名のリーダーが参加し、最初の30分間を顧客との対話に充てている。
コリソンは「すでに多くの顧客フィードバック機構を持っているにもかかわらず、この取り組みは常に新しい思考や調査を促す」と述べた。2010年に設立されたStripeは現在、世界最大の非上場フィンテック企業であり、最新の評価額は915億ドルに達する。
同社は小規模顧客よりも大企業に注力しているという批判も一部にあるが、2月に発表された年次報告書によれば、2024年の決済取扱高は前年比38%増の1.4兆ドルに達した。また、フォーチュン100社の半数が同社のサービスを利用しており、スタートアップ向けサービスから大企業向けプレイヤーへと成長している。
この取り組みに対してはイーロン・マスクを含む多くの起業家から称賛の声が上がる一方、一部の小規模事業者からはサポート対応の遅れなどを指摘する声も見られる。顧客中心の文化を維持するこの戦略は、急成長する企業にとって重要な差別化要因となっている。
米FDA、職員流出を懸念しリモートワークを復活
トランプ政権による連邦保健機関の大規模な人員削減の中、米食品医薬品局(FDA)は新薬や医療機器の審査担当者らに対し、週2日以上の在宅勤務を再び許可することを決定した。この措置は先月のオフィス完全出社命令からの方針転換だ。AP通信が入手した内部メールによると、新たに就任したマーティ・マカリー長官がこの決定を承認した。
FDAは約3,500人(全職員の約19%)の解雇を実施。規制・政策担当部署の閉鎖や、広報スタッフのほぼ全員削減など、組織全体に大きな影響が出ている。現場からは「職員が次々と辞めていく」との声が上がっている。
特に深刻なのは医薬品審査担当者らの流出だ。FDAの70億ドルの予算のうち約半分は企業から徴収する審査手数料で賄われており、医薬品部門に至っては予算の70%がこの手数料に依存している。連邦予算が一定水準を下回ると、企業は手数料支払い義務を免除され、既払い分の返還も可能になる仕組みだ。
専門家は現状について「単なる機能低下ではなく、壊滅的な崩壊のリスクがある」と警告している。失われた人材と専門知識の回復は容易ではなく、新薬承認プロセスへの影響も懸念される。
米国トランプの大規模関税政策に対するノア・スミスの見解
トランプ大統領による「解放の日」と称された大規模関税政策が米国経済に悪影響を与えている。株式市場と債券市場の暴落を受け、一部の関税は90日間停止されたが、中国に対する高関税は継続され、むしろ引き上げられた。全輸入品に対する10%関税も依然として有効だ。
ノア・スミスによれば、トランプ支持者たちが主張する関税擁護論はすべて誤りである。関税はインフレを引き起こし、長期金利を上昇させ、国の債務返済を困難にする。また「関税は製造業を取り戻す」という主張も間違いで、実際には国内製造業を弱体化させる恐れがある。輸入部品が高価になり、アメリカ製品の国際競争力が低下するためだ。
ノア・スミスは経済学者であり、人気ブログ「Noahpinion」の運営者だ。以前はブルームバーグのコラムニストを務め、国際貿易、マクロ経済学、経済成長に関する分析で知られている。リベラル寄りの見解を持ちながらも、データに基づいた実証的アプローチで経済問題を論じる姿勢が特徴的だ。彼は特に自由貿易の擁護者として知られ、保護主義政策に対しては一貫して批判的な立場をとっている。
スミスは今回の関税政策が対中国戦略としても効果的ではないと指摘する。トランプの関税は米国の輸入のほぼ100%をカバーするが、中国の輸出のわずか13.7%にしか影響しない。中国は他の買い手を見つけるが、アメリカは国内生産に大きく依存せざるを得なくなる。
トランプ政権の仮想通貨規制緩和政策
トランプ政権が法務省の仮想通貨取締り部門「National Cryptocurrency Enforcement Team(NCET)」を解体した。トッド・ブランチ副長官は月曜日に発表した方針転換で、バイデン政権時代の仮想通貨に対する「構想が不十分で実行が拙劣」な取り締まりを批判し、「規制による訴追という無謀な戦略」と非難した。今後の捜査は投資家被害や詐欺、テロ、麻薬取引、人身売買などの資金源となる案件に限定される。
この動きはトランプ大統領の1月に署名した大統領令に基づくもので、個人と民間企業が「迫害なしに公開ブロックチェーンネットワークにアクセスし使用する能力」を保護促進することを目的としている。ブランチ副長官は現在進行中の捜査でも新方針と「一致しない」ものは「終了すべき」と指示した。
トランプ家は「World Liberty Financial」という仮想通貨ベンチャーを設立し、ロイターによると同社のトークン販売による純収益の75%の権利を持つとされる。また、大統領自身も就任前に「$TRUMP」という独自のミームコインを発行し、3月には米国の仮想通貨戦略的準備を創設する大統領令に署名した。
証券取引委員会(SEC)も同様の方針転換を行い、仮想通貨取締りチームの再編や高額訴訟の取り下げを進めている。この新方針は、2023年に銀行秘密法違反で43億ドルの罰金を科されたBinanceの創設者チャンペン・ジャオのような事例を防ぐことを意図しているとみられる。
トランプは選挙運動中から「米国を惑星のクリプト資本にする」と主張し、仮想通貨業界からの支持を取り付けていた。この一連の動きは、トランプとその家族が個人的な仮想通貨事業利益を持つ中で進められている点も注目される。
(The New York Times)(The Guardian)(Reuters)
MCPのサポートが広がることによる業界へのインパクト
OpenAI、Google、Amazonなど大手AI企業が新たなオープンソースソフトウェア「Model Context Protocol(MCP)」の採用を表明した。このプロトコルはAIエージェントが外部アプリと連携するための標準規格で、特に消費者向けアプリ市場に大きな影響を与える可能性がある。
MCPの登場により、ユーザーはChatGPTなどのAIを通じて直接ピザを注文したり旅行を予約したりすることが容易になる。これはAirbnb、Expedia、Instacartなどのアプリの直接利用を減少させ、広告収入や消費者との関係構築に悪影響を及ぼす恐れがある。
この懸念はOpenAIがウェブ閲覧機能を持つAIエージェント「Operator」を発表する前にDoorDashとの会議で既に浮上していた。DoorDash側はボットによるサイト訪問が増えることで自社ビジネスが損なわれる可能性を指摘した。
MCPはAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)を活用して、AIエージェントが外部アプリから情報を取得したり購入などの行動を取ったりする際の作業を簡略化する。これに対し、アプリ提供企業はAPI経由で共有する情報を制限するなどの対抗策を講じる可能性がある。
一方、LinearやTwilioなど一部の企業はMCPを積極的に活用している。特に顧客がアプリ内で時間を費やす必要のないビジネスモデルを持つ企業はこの技術に期待を寄せている。
トランプに巨額献金のテック企業、見返りなし
ニューヨーク・タイムズの社説によると、米大手テクノロジー企業の最高経営責任者たちはトランプ大統領の就任式に巨額の寄付をし、黒いネクタイのパーティーを主催して大統領を称えた。メタのザッカーバーグCEO、アマゾン創業者のベゾス氏、テスラとXのマスク氏、アップルのクックCEO、グーグルのピチャイCEOらがこぞってトランプに接近した。しかし第二期政権発足から3ヶ月足らずで、トランプは彼らの豪華な歓待にほとんど報いていない。
社説は、先週課された包括的な関税がアップルのiPhoneのサプライチェーンを圧迫し、Amazon、Meta、Google、MicrosoftがAIを動かすスーパーコンピューターを構築するコストを大幅に増加させたと指摘した。トランプはAIや量子コンピューティングなどの新興技術研究への連邦資金も削減し、移民取り締まり政策も技術人材獲得の大きな障壁となっている。
さらにトランプ政権は、大手テック企業の力を抑制する厳しい規制姿勢を継続する意向を明確にしており、来週にはメタを分割する画期的な独占禁止法裁判が始まる。司法省と連邦取引委員会の新たなリーダーたちはGoogle、Meta、Amazon、Appleに対する一連の独占禁止訴訟を取り下げる兆しを見せていない。
ニューヨーク・タイムズは、イーロン・マスクは大統領の側近となり恩恵を受ける可能性があるものの、就任式以降、大手テック5社の時価総額は22%下落し、ハイテク株中心のナスダック指数も21%下落したと伝えている。第一期政権時には敵対的だったテック業界だが、今回の取り入り策はトランプのワシントンで成功する方法を完全に読み誤った可能性が高い。