✨カタパルトスープレックスニュースレター
技術者の今の仕事への本音/ジェフ・ローソンのTwilio創業ストーリー/FigmaのAI製品はどう作られる?/Getty Images CEOがAI著作権訴訟、全件対応は費用的に不可能と告白/企業ブログは死んだのか?/など
技術者の今の仕事への本音
プロダクト開発分野で大きな影響力を持つレニー・ラチツキーと専門家ノーム・セガールによる8200人超対象の大規模調査が、2025年の技術者の複雑な感情を明らかにした。最も深刻な発見は、回答者の約45%が重大な燃え尽き症候群(バーンアウト)を経験している点だ。その一方で、自身の役割に58.5%、キャリア全体には54.8%が楽観的な見方を維持するものの、過去1年で全体の感情は著しく悪化した。特筆すべきは、スタートアップ創業者が唯一楽観性を増している集団であり、あらゆる職場満足度指標で他を圧倒していることだ。
深刻なリーダーシップの問題も浮き彫りになった。自身の上司を「効果的」と評価した技術者は26%に過ぎず、42%以上が「非効率的」と見なしている。優れた管理職の下で働く従業員は、そうでない場合に比べエンゲージメントが48%、帰属意識が63%高く、燃え尽きは31%低いという結果が出た。働く場所に関しては、ハイブリッド勤務者が最も高い満足度を示し、完全リモート勤務者も良好な状態だ。興味深いことに、オフィス勤務者は現在の仕事への満足度は低いものの、キャリアの将来性についてはより楽観的である。
企業規模も従業員の感情を左右する強力な要因であり、小規模企業の従業員は、楽観性が高く燃え尽きも少なく、帰属意識も強いなど、多くの感情指標で大企業の従業員を上回った。キャリア段階については明確なU字型の傾向が観察され、初期キャリア(0~6年)の従業員は総じて楽観的だが、中期キャリア(7~14年)で最も感情が落ち込み、後期キャリア(15年以上)で再び持ち直す。多くの技術者がキャリア開発の方向性に不明確さを抱えており、これが不安や転職を考える一因となっている。
ジェンダーによる差も見られ、女性従業員は男性より燃え尽きを感じる割合が約3%高く、役割やキャリアへの楽観性もわずかに低いが、エンゲージメントや帰属意識はより強い傾向にあった。AIに対しては業界全体で不安が広がっており、多くの従業員が自身の役割の将来を懸念し、キャリアの再考を迫られている。この複雑な状況下で企業が成功を収めるには、優れたリーダーシップ育成、創業者的な自律性の尊重、柔軟な働き方の提供、小規模チームのような連帯感の醸成、そして特に中期キャリア層への手厚い支援が鍵となる。
ジェフ・ローソンのTwilio創業ストーリー
ジェフ・ローソンは複数の失敗を経て、最終的にTwilioという巨大なAPI企業を築き上げた。大学時代に始めた講義ノート共有サービス「notes4free.com」はドットコムバブル崩壊とともに消滅し、その後StubHubのCTO、スケートショップの経営と挫折を重ねた。しかし各事業で共通して直面したのが「電話ネットワークとの連携」という課題だった。既存ベンダーに問い合わせても数百万ドルと数年の開発期間を要求され、スタートアップには現実的でなかった。
2008年、ローソンはAWS出身の経験を活かし、電話システムをAPI化するアイデアを思いついた。開発者仲間にアイデアを話すと、最初は「どうでもいい」という反応だったが、30秒後に「実はこんなことがしたかった」と具体的な使用例を語り始めた。この反応パターンが5、6回続いたとき、彼は確信を得てTwilioの開発に集中することを決めた。4ヶ月でプロトタイプを完成させ、初期の関心を示した50人にAPIキーを配布した。
金融危機の真っ只中でVCからの資金調達は不可能だったが、顧客の反応を信じて両親から4万ドルを調達し、2008年11月20日にローンチした。初日から顧客が料金を支払い始め、翌日にはSonyから案件が舞い込んだ。「phonemyphone.com」という「携帯を鳴らすサービス」が最大顧客という状況でも、売上チャートの成長を投資家に見せ続けた結果、2ヶ月後に資金調達に成功した。
Twilioの成功の秘訣は徹底的な顧客志向だった。音声APIでスタートしたが、顧客からのSMS機能要求に応えて18ヶ月後に第二の主力製品を投入し、現在ではSMSが売上の半分を占める。一方で、売上が2億5000万ドルに達するまで営業チームを12人しか置かなかったという極端な戦略は、最大顧客Uberとの関係悪化で株価40%暴落という痛い教訓をもたらした。現在は風刺メディア「The Onion」を買収し、読者重視の購読モデルで再建を図っている。
FigmaのAI製品はどう作られる?人間中心の評価方法をFirst Round Reviewが解説
First Round Reviewは、ベンチャーキャピタル企業First Round Capitalが運営し、技術分野の製品開発者に役立つ情報やインタビューを届けるメディアだ。この記事ではFigmaでAI製品開発を率いるデビッド・コスニックが登場する。彼が解説するのは、人間の創造力を重視した新しいAI製品Figma Makeを、どのように評価し開発したかという人間中心の過程だ。コスニックはAI製品開発について、試行錯誤を重ねて初めてその価値が分かると語る。
Figma Make開発の土台には、既存製品Figma Sitesの技術と社内イベントで生まれたコードを直接扱える新技術があった。コスニックはAI製品が成り立つか判断する際、4つの基準を重視する。それは技術が十分に使えるレベルか、特別な開発が多く必要か、製品の範囲を変えられるか、そして技術と製品の機能がうまく噛み合うかだ。彼は試作品を素早く作り、確かめる速さが成功に不可欠だと強調する。
Figma Makeの評価は、常に人間を真ん中に置いて進められた。初めに、製品の良し悪しを決める明確な基準を設定した。これには見た目の良さや、きちんと動くかどうかの点数が含まれる。その後、開発チーム内から始まり、企画やデザインの担当者、さらに全社員参加のイベントや一部の顧客へと対象を拡大。彼らからFigJamなども使い、多くの言葉による感想や意見を集めた。
集まった意見やデータは様々な角度から分析された。例えば、製品が正しく動くかのテストや、外部スタッフの協力も得て多くの人の「好みや判断」を反映させた評価を実施した。AI自身による評価や、2つの案を比べる方法、実際の使われ方の分析も行われた。コスニックは、利用者の本当の要望からずれた部分を調整しすぎることの危うさを指摘する。優れたAI製品作りには、人間を大切にする姿勢が欠かせないとこの記事は締めくくる。
Getty Images CEOがAI著作権訴訟、全件対応は費用的に不可能と告白
Getty ImagesはAI著作権侵害に対し当初、アーティストの権利を強く擁護してきた。しかしCEOクレイグ・ピータースは、全AI著作権訴訟との法廷闘争は費用面で不可能との見解を示した。Stability AIとの一訴訟だけで数百万ドルを費やしている。そのため全侵害事案の追及は現実的でないと断言する。
高額な訴訟費用の典型例が、Stability AIとの著作権紛争である。同社はGetty Imagesの1200万点超の画像を、自社AI「Stable Diffusion」の学習に無許可で利用したとされる。Stability AI等AI企業は、ウェブからの画像収集とAI学習への利用は「フェアユース」だと主張する。さらに、AI学習データとして作品を利用する際のアーティストへの対価の支払いは、イノベーションを遅らせると反論する。Getty ImagesのCEOピータースは、このAI企業側の姿勢をイノベーションを口実とした不公正な競争であり窃盗だと断じる。
Metaの元幹部ニック・クレッグが、AI学習に膨大なデータを用いるためアーティストの事前許諾は現実的でなくAI産業を「殺す」と主張した際、ネット上で広範な批判が起きた。この主張に、Fairly TrainedのCEOエド・ニュートン=レックスが反論。ニュートン=レックスは、AI企業の「技術は普及済み」「ライセンスに時間が必要」「他国は制御不能」といった主張は、かつてNapsterが著作権侵害を正当化しようとした論法と同じだと指摘。法に則ったクリエイターの公正な扱いが必要だと訴えた。
AI業界のこうした主張が議論を呼ぶ中、Getty Imagesは訴訟費用の高さを鑑み他の対抗策も重視する。その一つが、トランプ政権にAI企業への著作物の「学習する権利」という安易な例外を認めさせないロビー活動だ。同社はこれら活動を通じ、AI企業の商業的利益のためにアーティストの権利が侵害されぬ世界の実現を目指す。
企業ブログは死んだのか?
エミリー・クレイマーはMKT1の共同創業者であり、自身のYouTubeチャネル「Dear Marketers」でスタートアップのマーケティングに関する疑問に答えている。このエピソードでは、「企業のブログは死んだのか」という問いについて議論が交わされた。
結論から言えば、企業のブログは完全に死んだわけではないが、その役割は大きく変化し、進化し続けている。かつてブログは、HubSpotが提唱したインバウンドマーケティングの中心的存在であり、情報発信や見込み客獲得の主要な手段だった。人々は情報を得るために企業のブログを訪れていた。
しかし、モバイルデバイスの普及やSNSの台頭により、情報の消費形態は変化した。コンテンツはフィード形式で大量に流れ、個々のブログ記事が注目を集めることは難しくなっている。単なるSEO対策や製品情報を並べるだけのブログは、もはや読者にとって価値を提供できなくなっている。
現代において企業コンテンツに求められるのは、独自の視点や深い洞察、ストーリー性を持った「ショー」のような体験である。多くの情報が溢れる中で、読者に真に価値を感じさせ、記憶に残るコンテンツIPを構築することが重要となる。そのためには、読者のニーズを深く理解し、専門性の高い情報を提供する必要がある。コンテンツの形式も記事だけにこだわらず、動画やツール、テンプレートなど多様なリソースを提供する「リソースセンター」としての役割が求められる。
Substackのような外部プラットフォームの活用も選択肢の一つだが、自社サイトでの発信とのバランスや、コントロール、分析の観点からのトレードオフを考慮する必要がある。また、LLM(大規模言語モデル)の登場により、コンテンツがAIにどう評価されるかも無視できない。しかし、最終的に情報を消費するのは人間であるため、小手先のテクニックに走るのではなく、人間にとって価値のあるコンテンツを作り続けることが本質である。
最も重要な問いは「ブログは死んだか」ではなく、「あなたのコンテンツは生きているか」、つまり読者に届き、価値を提供し、他との違いを明確に示せているか、ということだ。
IPO不振でVCファンド割引売却が加速
2025年に期待された新規株式公開(IPO)の波は訪れていない。市場の不安定さからIPOが遅れ、ベンチャーキャピタル(VC)の出資者(LP)は現金化に苦慮している。そのためLPがVCファンドの持ち分を売却する動きが顕著だ。
Nokiaの年金基金や、著名投資家リー・フィクセル自身の資産を管理するファミリーオフィスも、保有するVCファンド持ち分を売却した。Lexington PartnersやStepStone Groupなどの専門投資会社は、これらの持ち分を割引価格で購入している。実際、VCファンド持ち分などの流通市場における取引額は昨年、過去最高の1620億ドルに達した。
VCファンド自体もLPへの現金還元を急ぎ、投資先スタートアップの株式売却を積極化している。Insight Partnersなどは既存LPが持ち分を売却できるコンティニュエーション・ファンドを活用する。Basis Set Venturesのラン・シュエジャオは、複数企業の株式をまとめて売却するストリップ・セールでLPに現金を還元し、安心感を得たと述べる。
現在は買い手市場であり、スタートアップ株式の持ち分は時に50%もの割引価格で取引される。買い手側は高いリターンを狙う。価格交渉が難航する事例もあるが、LPが長期保有を敬遠し割引を受け入れるため、今後も取引は増加すると専門家は予測する。Industry Venturesのハンス・スウィルデンスも割引率の拡大を指摘している。