カタパルトスープレックスニュースレター
トニー・シェイ遺産問題/a16zはいかにVCを破壊したか/ミルウォーキー警察、顔認識技術導入巡り市民と対立/セールスの未来/チューリッヒ大研究者、Redditで「非倫理的」AI実験 - 法的問題へ/など
トニー・シェイ遺産問題:死後4年経て遺言書出現、驚きの内容
2020年に46歳で事故死した元Zappos CEO、トニー・シェイの数億ドルに上る遺産を巡る法廷闘争に、驚くべき新展開があった。これまで存在しないと見られていたシェイの遺言書とみられる文書が、最近死亡した男性の遺品から発見された。
シェイはオンライン靴小売ZapposをAmazonに12億ドルで売却し富を築いたが、晩年はアルコールや薬物乱用に苦しみ、多くの知人に口約束で金銭を約束していた。遺言書がないまま始まった遺産管理は、これらの約束の有効性を巡り複雑な訴訟に発展していた。
今回発見された文書は2015年初頭に署名されており、シェイが自身の財産の将来について明確な計画を持っていたことを示唆する。文書には、受取人に「WOWファクター」を経験させ、驚きと共に贈り物を受け取ってほしいというシェイの意図が記されている。
遺言書の内容は、約5000万ドルとラスベガスの複数不動産を、受取人が不明な複数の信託に移管するというものだ。さらに、ゲイツ財団など複数の慈善財団、母校ハーバード大学(300万ドル)、赤十字(50万ドル)、そして家族へ数百万ドルの寄付を指定している。これらの分配後、残りの遺産は家族に残される。
注目すべきは、家族に対する「異議申し立て禁止条項」の存在である。4人の家族のうち誰か1人でもこの遺言に異議を唱えた場合、全員が相続権を失うという厳しい内容だ。
この文書は2025年2月、故ピール・ムハマド(アルツハイマー病を患い、シェイ氏の死を知らなかった)の遺品の中から発見された。ムハマドは遺言書に署名した5人の証人の1人であり、遺言書を「排他的に保管」していたとされる。他の証人の詳細は不明だが、1人は署名を認めている。遺言書で共同遺言執行者に指名された弁護士にも写しが送られた。シェイが計画について録画したビデオの存在も示唆されているが、発見されたかは不明だ。
この発見により、シェイの遺産を巡る法廷闘争は新たな局面を迎える。ラスベガスで2025年5月に審理が予定されている。
a16zはいかにVCを破壊したか:創業者らが語る戦略と未来
Andreessen Horowitz (a16z)の共同創業者マーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツは、同社がいかにして従来のベンチャーキャピタル(VC)業界を破壊し、その未来をどう見ているかについて語った。
a16z設立の背景と既存VCへの問題意識
二人は起業家としてVCを利用した経験から、VCが投資家(LP)には良いが、起業家には価値提供が不十分であると感じていた。当時のVCは資金提供以外に乏しく、受け身で案件を選ぶ「回転ずし」のような姿勢に疑問を抱いた。また、ドットコムバブル崩壊後のエンジェル投資経験を通じて、多くの起業家がVCとの関係に苦労している実態を目の当たりにし、起業家視点に立った新しいVCの必要性を確信した。
a16zによるVC業界のディスラプション
a16zは、既存VCとの差別化を図るため、以下の戦略を実行した。
プラットフォーム・アプローチ: 単なる資金提供者ではなく、採用、マーケティング、事業開発など多岐にわたる支援を提供する専門家チームを擁する「プラットフォーム」を構築。起業家が大手企業CEOのような広範な支援を受けられる体制を目指した。
起業家中心主義と経験者採用: 当初、GP(ジェネラル・パートナー)を起業経験者に限定し、起業家の課題や心理を深く理解する組織文化を醸成した。
積極的なブランド構築: 従来のVCが避けてきたマーケティングや広報活動を積極的に行い、短期間でトップティアVCとしてのブランドを確立した。
スケール化と専門特化: 「ソフトウェアが世界を食う」時代を見据え、特定分野(Crypto, Bio, American Dynamism等)に特化した専門チームを擁する大規模ファームへと舵を切った。
バーベル戦略の実践: VC業界が中間的な「百貨店型」から、大規模な「スケール型」と専門的な「ブティック/シード型」に二極化(バーベル化)すると予測し、自らはスケール型を目指した。
VC業界の進化と未来
VC業界はa16z設立以降、資金流入の増加、競争激化、プライベートマーケットの拡大など大きく変化した。今後、AIによる投資判断の進化や、新たな資金調達モデルが登場する可能性もある。しかし、VCの本質はリスクの高い挑戦を見抜く「アート」であり、起業家との人間関係や心理的なサポートは代替困難であると両氏は指摘。a16zは顧客視点と構造変化への洞察で業界を変革したが、常に次の変化に備える必要があると締めくくった。
ミルウォーキー警察、顔認識技術導入巡り市民と対立
ミルウォーキー警察は、過去の逮捕者の顔写真約250万件を提供する代わりに、顔認識企業Biometricaの技術を無償で利用する提案を検討している。警察はこの技術によって事件解決が迅速化され、逮捕率の向上が期待できると主張するが、市民や活動家からはプライバシー侵害、監視拡大、さらには連邦機関への情報流出などの懸念が噴出している。
4月17日の市消防・警察委員会の会合では、警察がこの計画を初めて正式に説明。技術は単独では逮捕の根拠にならず、公共の安全に関わる場合に限って使用するとしている。今後は市民の意見を反映しながら、使用方針を策定するとした。一方で、顔認識が誤認や人種バイアスを引き起こすという指摘も多く、委員の一人は自身が誤認された経験を語った。
Biometricaはギャンブル業界向けに始まった企業で、捜査協力時のデータを保持しないとされる。提案では、無料で2つの検索ライセンスを提供し、追加は1万2000ドルで販売する。だが、市民からは「監視の武器化」への懸念が強く、ACLUは市議会に対して新たな監視技術導入の2年間凍結と、市民参加型の規制策の導入を要請している。
この顔認識提案は、ドローンチーム設立など警察による近年の監視技術拡大の一環と見られており、透明性と市民の信頼が問われている。
セールスの未来:AIによる10の確実な変革とは
SaaStrのJason Lemkinは、AIがセールスを根本的に変える10の確実な方法と、それに続く変化について解説した。これらは自身のAI運用経験や投資先の事例に基づいた確度の高い予測である。
AIが確実にセールスを変える10の方法
AIが全セールスコールに参加: 12-18ヶ月以内に実現。AIは単なる議事録係ではなく、製品知識を完璧に備えたデジタルアシスタントとして参加し、質問に即答。「後で確認します」は消滅する。
AIは最高のBDRになる: AIは24時間稼働し、製品知識が豊富で丁寧かつ正確。インバウンドリードの予選において人間のBDRを凌駕し、その役割はほぼ不要になる。
AIがワンコールクローズの80%を処理: 特にSMB向けの定型的な取引では、AIが質問応答から契約まで完結させる。12-18ヶ月以内に実現する。
顧客は優れたAIとの対話を好む: 遅く知識不足な人間より、迅速で的確なAIとの対話が選好される。SaaStr AIの経験がこれを示す。
日常的セールスの25-50%はAIが解決: サポート分野と同様に、セールスでも日常的な取引の多くがAIによって完結する。
AIがセールス・サポート・サクセス・マーケを統合: 部門間の壁がなくなり、AIが単一の窓口として顧客対応をシームレスに行う。
AIがQBRとチェックインを引き継ぐ: 形骸化した人間によるレビューは、AIによるパーソナライズされた自動フォローアップに置き換わる。
AIがセルフサービス導入を促進: AI主導のセールスプロセスは、即時導入可能なセルフサービス型製品への移行を後押しする。
AIの進化は現在進行形: 現在の能力だけで判断せず、急速な進化と将来性を見据える必要がある。SaaStr AIも5週間で機能が大幅に向上した。
(上記9点に集約されるAIの能力向上と普及) (トランスクリプトではNo.4が欠番、No.10はNo.9に包含される内容のため実質9項目+αとして要約)
さらにAIがもたらす変化
価格透明性の向上、顧客中心の契約条件(月契約、容易な解約)の増加、AIによる予期せぬ業務(ギャップ)の充足、そして顧客が旧来の遅く非効率なセールスプロセスを許容しなくなる、といった変化も予測される。
結論
AIはセールスの質、効率、顧客体験を劇的に変革する。優秀な営業担当者はAIを「メカスーツ」のように活用し能力を高める一方、AIに依存する担当者は淘汰される二極化も進む。この変化は既に始まっており、企業と営業担当者双方にとって適応が不可欠である。
チューリッヒ大研究者、Redditで「非倫理的」AI実験 - 法的問題へ
Redditは、チューリッヒ大学の研究者に対し法的措置を取ることを表明した。研究者らは、人気サブレディット「r/changemyview」で、ユーザーに無断でAIチャットボットを用いた秘密実験を行った。
この実験では、数十のAIボットが物議を醸すトピックでユーザーと議論を交わした。一部ボットは、自身をレイプ被害者やトラウマ患者、BLM運動に反対する黒人などと偽った。さらに研究者らは、別AIでユーザーの投稿履歴から年齢、人種、性別、居住地、政治的信条などの個人情報を推定し、ボットの応答に利用した。
Redditの最高法務責任者ベン・リー氏は、この実験を「不適切で非常に非倫理的」であり、「学術研究、人権規範、Reddit規約、サブルールに違反する」と断じた。同社は実験を事前に知らず、関与アカウントは全て停止した。Redditはチューリッヒ大学と研究者に正式な法的要求を行い、責任を追及する。
一方、チューリッヒ大学は、研究結果を公開しないと決定。大学倫理委員会は実験の困難さを指摘し修正を勧告したが、法的拘束力はなく最終責任は研究者にあるとした。大学は事件を調査し、審査プロセスを見直す。
研究者の身元はプライバシーを理由に非公開で、論文草稿も匿名公開された。これは異例の対応である。実験対象ユーザー、モデレーター、Reddit運営者への事前告知はなく、個人情報分析AIには「ユーザーはインフォームド・コンセント済み」という虚偽情報が含まれていた。
英国、オンラインギャンブル税制を一本化 - 簡素化狙うも業界は危機感
英国政府は2025年4月29日、オンラインギャンブルの税制を大きく変更する公開協議を開始した。現行の複数の税制を廃止し、単一の「リモート賭博・ゲーミング税(RBGD)」を導入する提案である。
この提案は、オンラインギャンブル市場の急拡大を受けたものだ。リモート・ギャンブルの年間総粗利益(GGY)は現在69億ポンドに達し、過去10年で200%増加した。政府は、現行の一般賭博税(GBD)、プール賭博税(PBD)が粗利益の15%、リモート・ゲーミング税(RGD)が21%という税率の違いが、現在の業界の実態や顧客体験を反映していないと指摘。財務省のジェームズ・マレー議員は、単一税への移行が「税の確実性を提供し、リモート・ギャンブルの簡素化を進める」と述べ、公平で近代的な税制を目指すとした。新税制でも、課税はギャンブラーの所在地に基づく「消費地主義」を維持する。
しかし、英国賭博・ゲーミング評議会(BGC)はこの提案に対し、「政府の成長戦略に反する自滅的な行為だ」と強く反発した。BGCのCEO、グレイン・ハースト氏は、さらなる増税は財務省の歳入増にはつながらず、むしろ企業に投資や雇用の海外移転を強いると警告。特に、一般賭博税がリモート・ゲーミング税と同じ水準に引き上げられた場合、競馬界の財政に壊滅的な打撃を与えると主張した。さらに、製品価格の上昇が顧客を危険なオンライン闇市場へ追いやるリスクも指摘した。BGCは、規制強化の白書によって業界が既に多大な負担を強いられている中での増税案を批判した。
政府は、無料ベットや賞品の扱い、新税の管理・執行方法など詳細について意見を募っている。公開協議は12週間実施され、2025年7月21日に締め切られる。提案が承認されれば、立法プロセスやシステム更新を経て、早ければ2027年10月から新税が導入される可能性がある。
Amazon、関税表示計画を否定 - ホワイトハウスの「敵対的」批判受け即時撤回
Amazonは、商品価格に関税額を表示する計画があるとの報道を否定した。ホワイトハウスがこれを「敵対的で政治的な行為」と激しく非難した直後のことである。
発端は、Punchbowl Newsが報じたAmazonの関税表示計画だった。これに対し、ホワイトハウスのカロライン・レビット報道官は記者会見で、トランプ大統領と協議した上で「これはAmazonによる敵対的で政治的な行為だ」と断じた。レビット報道官はさらに、バイデン政権下のインフレ時にAmazonが同様の表示をしなかった点を疑問視し、同社が「中国のプロパガンダ機関と提携している」とも非難した。
この猛反発を受け、Amazonは即座に計画を否定。「低価格ストア『Amazon Haul』のチームが輸入品に関する費用表示を検討したのは事実だが、承認されておらず、実行されることはない」との声明を発表した。Amazon本体サイトでの検討は一切なかったとも付け加えた。
この動きの背景には、トランプ政権による中国製品への145%という大規模な関税導入と、800ドル未満の輸入品に対する免税措置の撤廃がある。輸入品に大きく依存する中小販売業者が売上の多くを占めるAmazonにとって、この関税は大きな打撃となる。既に一部商品では価格上昇が起きており、Amazonのアンディ・ジャシーCEOも、最終的にはコストが消費者に転嫁されるだろうと予測している。
この一連の出来事に対し、ホワイトハウスの対応は価格透明性への圧力であり、関税政策がもたらす物価上昇という不都合な現実を隠蔽しようとするものだとの批判が出ている。特にThe Verge誌は、Amazonの即時撤回を「屈服」と断じ、「自由市場」を標榜するオーナー、ジェフ・ベゾスの言動との矛盾を厳しく指摘し、原則を貫くべきだと論じた。404 Mediaも、政権が企業を脅して現実を否認させようとしていると批判した。
Amazonは今回、政権の圧力に屈する形で計画を否定したが、トランプ政権の関税が物価を押し上げ、企業や消費者の購買行動に影響を与えるという現実は変わらない。